115 / 121
第16話
3日したら、やっと熱が下がって、それでもしんどくて寝ていた。どうにかこうにか立ってリビングに行こうとするのに、毎回のごとく朔が止めに入ってくる。
大人しくしてろってベッドに横たえられるんだけど......1人でいたくない、寂しいって言ったらにやけ顔を手で隠して仕方がないからと許してくれた。
そして、いまリビングにいる。
目が覚めたら榊田に戻ってるんじゃないかと思って、寝るのが嫌になってた。
夢の中で祖母がおれの首を絞めようと、追いかけてきて...逃げた先に、......慎也がいる。また逃げ続けると、とうとう部屋に追い詰められ...
飛び跳ねて起きる。そこに朔がいないと、捨てられたと絶望する。
おれの啜り泣く声を聞けば朔は駆けつけてあやしてくれるけど、ずっとそれじゃだめだってわかってる。だから、泣かないでいられるように、リビングで起きてることにした。
これなら、朔はそばにいるから泣かないし夢が怖くて飛び起きることもない。
って、しようと思ってたのに。
「なにいってるんだ、おまえは…」
怒りを顕にした朔によって、その作戦は失敗に終わる。
「そんなこと許すとでも思ってたのか?それでなくても疲れが溜まってるのに、寝ないでどうやって疲れを取るんだ!昨日まで熱が出てたんだぞ!大人しく寝てろ!!」
ひゃっと久々の朔の怒号に竦み上がった。
迂闊だった。寝なきゃ悪夢も見ないし朔がいなくて泣くことない、これぞ一石二鳥...とか呟かなきゃよかった。
後悔先に立たず......一瞬で、キッチンにいたはずの朔が飛んできてどやされた。
「でも...でもっ」
「でもじゃないだろ」
寝ることを強要する朔と、拒否するおれ、その間に、見えない亀裂が入った。
「.........」
睨み合いが、続く。どちらも折れる気は全くない。時間は、多分、3分にも満たない。朔の口が先に動いた。
「そっちがその気なら、こっちにだって考えがある」
「ふーん...」
「そんなに寝たくないならー」
いつまでも起きとけ?そうしてやる、意地からでも寝てやんない。
「無理やり寝かせるまでだ」
そう断言してやろうと思ったのに返答は、斜め上をいく。
むりやり、ねかせる、までだ?
「はぁ?!」
どうやって寝かしつけようというのだ。ベッドには絶対移動しないし、ソファーに横になる気なんてさらさらない。
「......」
朔が、無言で近寄ってきて、隣に座る。なにをされるんだとビクビクしてると、世界が横転した。
「はい、膝枕完成」
「...ひぇっ?!」
変な声出た。
「心配なんだ、気づけ」
小さい子にやるようにぽん、ぽん、と叩かれる。
「心配...」
「まだ微熱があるんだ。1人が嫌ならこうやって一緒にいてやるから」
ふっと体の力が抜ける。
なんでこんなに意固地になってたんだろう。甘えちゃいけない気がして...でも、もうそんなこと考えなくていいんだ、家に、朔の元に帰ってきたんだって、心がやっと受け入れた。
「目、閉じてるだけでも疲れは取れるから」
「うん」
目を閉じる。あ、なんか...ねむ、い...。朔の、香りに包まれてる感じが、好き...。
本格的に眠りに入り、意識が遠のき、おれは寝ていた。
ピンポーン
インターフォンに叩き起されるまでは。
ともだちにシェアしよう!