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第19話
「父さんは、時々おれみたいに意固地になるよね」
「.........」
なにも言えない。確かに意固地だと思える部分があるから。
譲の瞳がじっとこっちを見る。その目は結花子に酷似していて、まるで結花子に怒られている気分になった。
「ほらほら、謝ってくれたんだから朔もちゃんとお話ししようねー」
まさに子供を諭すように言われて、微かに笑う。歪な笑みを見て、譲は「いい子ー」と頭を撫でた。
...そこまで子供に見えるのかと突っ込みたくなるのを飲み込む。
改めて、"父さん"に向き直る。
「わざと譲に冷たく接していたのは、下手に沙恵に勘繰られるのを避けたかったからだ」
ちゃんと、この人にはこの人なりの気持ちがある。ただ考えなしに動いていたわけじゃない。
「榊田を潰したとして、あなたはどうするんですか」
「さぁな。可愛い孫の姿でも見ながらのんびり暮らしたいが、沙恵がいる手前、どうにも出来んだろうな」
「譲は渡しませんよ」
さっきまでのピリピリとした空気は消え、俺と"父さん"の間に柔らかい雰囲気が流れる。
「今回の件、ありがとうございました」
「礼を言われる筋合いはない。座敷牢に閉じ込められた時、儂にはどうすることも出来んかったからな」
「一応は守ってくれたんですよね?」
「守れてないがな」
頑固はどっちだ。結局守れてないから認めないという根性は見直してほしい。
「母さんと離婚する気はないんですか」
「離婚して野放しにする気は無い。刺されたいのなら話は別だが」
「刺す」と聞くと譲が隣で飛び上がった。平気で首を絞める人だ、なにをしてもおかしくないな。
「沙恵は今頃家で駄々を捏ねているだろう。今朝は『譲はわたしの息子よ』などと言って箪笥 をひっくり返していたな。
そうそう、昨日初めてちゃぶ台返しというものを見た」
楽しそうに笑う"父さん"。そんなに家の中で暴れられているのに嬉嬉として話す姿に、少々引くものがある。
「譲、少しいいか」
"父さん"に唐突に話を振られ譲はおずおずと、小さい声ではいと返事した。
「今後一切、儂らは官乃木家に干渉せん。おまえはおまえの道を行きなさい。榊田に囚われるな」
過去に俺にも言ったことを、譲にも言っている。こうやって昔も、きちんと向き合えば今は変わってたのかもしれない。でも、それなら結花子とも逃げ出すことはなかったし、譲はここにいない。
だったら榊田を飛び出したのも間違いじゃない気がする。
譲が数度頷くと、"父さん"は持っていた小物袋から携帯を取り出した。それをテーブルの上に置く。
「譲のだ」
「それ。おれのじゃないです」
「沙恵が、壊してな...新しいものだ。受け取りなさい」
ちら、と俺を見てくるからいいよという意味で微笑むと、携帯をそろっと手にした。そして少しいじって―すぐさま離す。
"父さん"は眉を寄せた。
「気に入らなかったか?」
「じゃじゃ、じゃなくて!あの、これまだ日本じゃ発売してない型!」
「そうなのか。1番新しくて機能性がいいものを、とだけ伝えたせいかもしれん」
「う、受け取れない!こんなの使えない!!」
やはり感覚がズレているらしい。譲の狼狽えぶりに"父さん"は不思議そうな顔をするだけだった。
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