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第2話
振り払った手と、大声がリビングに居心地悪く残る。
「ご、めん」
すぐさま謝ると、父さんもいや急に触って悪かったと謝る。
居心地悪い。
この感情がどういうものなのか、誰に向けているものなのかが分かった途端、おれはまた自己嫌悪に陥っていた。
なんで、寄りによって、自分の父親なんかを。血なんか繋がってなければいいのにとも思った。だけど、どうせ父さんと血が繋がってなかったとしても、告白なんて出来やしない。
『キモチワルイ』
それが世間一般の反応なんだ、おれはそれを知っているから、だから余計になにも出来ないんだろう。
「…譲、どうしたんだ?何かあったのか?」
父さんはあの時以来、おれへの接し方が変わった。
まずよく話しかけてくれるようになった。おれも戸惑いつつも会話をするようになっている。
次におれとの時間を増やしてくれるようになった。
ただいきなりこんな行動に移されると対応に困るわけで。しかも一緒にいる時間を増やされると、色々と困るわけで。
あと、父さんはどこか抜けているのか、風呂に一緒に入ろうなんて言い出す。今まで仲が悪かった親子がいきなりそこまで親密になれる訳ない。つかそんなこと、出来ない。
親密になればなるほど「あの感情」が募って、逃げられなくなる。
見えない鎖がギリギリとおれを縛り付ける。
もがけばもがくほど、きつく、解けなくなっていく。
「…あのな、譲」
「なに…?」
今でも父さんとの会話はぎこちない。きっと父さんも感じているのだろう。
父さんはおれの部屋の前で話してくれている。わざわざ来てくれた、そう思うとドキドキする、なんて乙女思考を持つ。
いいだろ、どうせ叶いもしないんだから、思うくらい。
「お前と会わせたい人がいるんだ」
あわせたいひとがいるんだ。
頭の中で復唱する。何か、嫌な予感が頭をよぎった。
さっきまでの高鳴りは、違うものへと早変わり。
「明日家に連れてきたいんだけど、
予定か何か入ってるか?」
「っ…そ、の人って、なに?」
聞くのが怖い。返ってくる言葉を聞きたくないけど、上手く手は動いくれずじまいで。結局父さんの言葉を聞いてしまう。
「その人は父さんの」
やめて、くれ。
ちゃんと隠すから、絶対言わないから、もうわがままも言わないから。
その先を、口にしないで。
「―大切な人だよ」
無慈悲にもその言葉はおれに掛けられた。
深く突き刺さったそれはもう二度とぬけることがない。
大事な人。分かってる、父さんは普通の人だ。おれとは住む世界が違う。
おれは男しか愛せないけど父さんは違う、父さんは普通に女の人が好きなんだ。
「…ごめん、明日は出かける」
出来るだけ自然に語りかける。
「そうか。また空いている日があったら言ってくれ」
ああ、言いたくない。
「わかった」
なのになんでおれの口は、こんな。
「また、教えるから」
こんなウソをつけるんだよ。
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