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第5話

 「…どういうことだ、譲。そんなに俺と一緒にいたくないならそう言えばいいだろう。こんなこそこそと…」    だめだ。父さんが「俺」と言ってる時点で、普段言わない口調で言っている時点で、おれの頭がテンパってしまっている。言い訳が何も出てこない。  まさか、父さんが好きすぎて辛いので家から出ようと思いましたとは…。言い難い。    「あ…いや」    「言い訳は後で聞く。リビングに来なさい」    話を聞く感じではない。静かに怒りを爆発させられる感じ。    「調べなきゃ、だめだから」    とにかく父さんと離れようと適当な言い訳をする。  この期に及んでまだ調べようとするおれに父さんの周りの温度がさらに下がったのが感じられた。    -50度?    「何をだ?どうせ話せないくせ…黙って来なさい」    父さんは無理やりおれを立たせて部屋から引きずり出した。  どう考えても怒ってる。        ずるずると引きずられ、おれはソファーに投げつけられた。  扱い方と言葉遣いでどれだけ怒っているかがよく分かる。久しぶりの父さんの怒りが怖い。    父さんはおれの前に立ち、バサッと買ってきた不動産屋の雑誌を床に放り投げた。    「言い訳はあるか、譲」    そういう父さんの声は反論をも認めぬ硬い声だった。    「…」    「いつもお前はそうだ。何も話さないで自分で決めて。そんなに俺は信用ないか?そんなに嫌いか?」    ちがう、ちがうんだと首を振る。今や父さんの目は射抜くように俺を見ている。    「じゃあ何なんだ。俺の…チッ。父さんの、納得ができる、理由を話せしもらおうか」    「父さん」に戻した。  おれの恐怖度はマックスに到達しようとしていた。わざわざ戻すなんて、今ままで怒った中で一度もなかった。    いや、それよりも…。今は言い訳だ。なんとかしてこの場を乗り切りたい。    「…一人暮らし、したい、なぁって…思って」    「ならなんでこそこそ俺がいない時にパソコンをしていたんだ」    「た、たまたまだから。たまたま父さん居なかったってだけで、深い意味は…」    「俺がいたらパスワード教えたのに?」    「それは」    「そう言えば最近会話もなかったよな。その辺に関しても、しっかり聞きたいんだが」    ずいっと顔を近づけられ、その精悍な顔がおれを見つめる。    ―やば。かっこいい。    そうじゃないだろう。顔を背けると頬を両手でムニっと挟まれた。    「…譲」    父さんの悲しげな声を聞き、顔をまた見る。    「…父さん、またお前に、何かしたか?傷つくような言葉を言ったなら謝る。だけどな、何も言わずに行動されるのは父さんも辛いんだ」    おれは何も言えなくなって、リビングにカチカチと、時計の音だけが響いている。    臆病者。だって、父さんをこんなにしてまで事実を、本音を言えないだなんて。    おれの今の気持ちを知っても、父さんは、受け入れてくれますか。    ふっと息を吸い込む。    「気持ち、悪がらない…?」    「…何も聞いていないから、何も言えない」    「吐くかも」    「誰が?」    「父さんが」    「吐かない」    「き、気分悪くなるかも」    「ならない」    「…」    ここまできたら、言うしかないのか。  心の準備が整っていないのに。こんな展開で告白するなんて思ってもみなかった。  玉砕覚悟。  絶対振られる。こんな子供でそれも息子で男なんだ。  父さんには大事な人もいる。    さよならおれの、初恋。    「と、うさんが                              好きです」

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