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父さん、喋らないで 1

 朔が置いていった携帯を、たまたま見てしまった。なんにも思ってなくて、ただ開いたままのメールに興味を引かれただけ。    『From:佐久間 百合子 TO:官乃木 朔   件名:無題     明後日、空いてる?いつものカフェのいつもの時間でお願いね。     もちろん、ゆずくんには内緒で』      この、ゆずくんって言うのは…おれ?内緒ってなに、いつものカフェ?明後日どこかに行くの?  一瞬のうちに頭の中を色んな想像が張り巡らされた。    「…さいあく」    そんなにおれのこと嫌になったらなら、言えばいいのに。やっぱり子供だから?  それでも、子供だと思われないように料理してみたり洗濯もしてみたりしたんだけど。だめ、だったのか。確かに失敗ばかりだったし。    そのとき丁度、朔が風呂から戻ってきて今の状況を見た。  携帯を見て、おれの涙目を見て、直後。顔色が真っ青になる。その間が凄く早かった。    「ちがう…譲、違うんだ」    「なにが…?」    言い訳をしようとして、しどろもどろになる。怪しすぎ、メール見たなんて言ってないのにメールって分かるんだ。    「いや、その…」    「へぇ…自分が後ろめたいことしたっていう自覚、あるんだ?」    「ちがうっ」    その必死さが、余計に怪しさを増長させていることに、朔は気づいているのだろうか。    「じゃあ、この人と何話してるの?」    思い切って問いただしてみる。朔は目を泳がせて、おれを見ようとしない。    「これは、その…えっとな」    「うん」    「………」    少し待ってみたけど、黙り込んでしまった。…喋ってくれないんだ?  沈黙に耐えかね、キッと睨みつけ叫ぶ。    「あっそ。話せないんだよね?こーんな子供じゃ相手になんない?そうだよね!そうですよね!ごめんなさいね子供で!」    言い終わると、朔は悲しそうな顔をしていて。なんでそんな顔するんだって言いたくなる。被害者はおれのはずなのに。    「―そんな顔するなら、浮気すんな!」    浮気。    言葉にしたくもなかったのに。まさかこんなに早く飽きられるとは。いろいろと頑張ったと思ってたのにやっぱり無意味だったようだ。    「朔のばか!」    恋人になってから、朔と呼ぶようになった。だっていつまでも「父さん」じゃ、恋人っぽくないと思って。  でも今から、父さんに戻す。もう名前呼んでやらない。    「…譲」    はぁ、とため息をつかれ肩を震わす。その行動から、別れ話をされるんじゃないかって勝手に考えてしまった。     「〜!」    ぶわっと涙が出る。自分勝手だって分かってる。結局は朔はノーマルなんだ、どうにも出来るはずない。    「譲っ」    だからリビングを飛び出して、家を出た。    

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