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第2話

   意味わかんねぇ!と道端の石を蹴る。石は見事に用水路に落ちた。    家を出てみると、空はもう既に暗くなってきていた。だけど飛び出した手前、帰るのも…。いやいや、帰る気なんてさらさらないし。あっちが反省するまで帰んないし!    でも、反省って言ってはみるけど…。俺が嫌で浮気、したなら、何も言えない…。    「あれ、官乃木?」    グルグルと嫌な考えが回るなか、呼びかけられ振り向くと、クラスメイトの小野山がいた。手に袋を抱えているのは買い物帰りなのか。    なんでもいいや、もう。  「え、ちょっと。なんで涙目?」    なぜか顔を見ると安心して、目尻に涙が浮かぶ。情緒不安定。朔との口論で破裂寸前だった涙が外へ飛び出し始めた。    「ちょっ?!」    そうして柄にもなく(?)抱きついた俺は、小野山の家に連れていかれた。            事情を話すと、小野山は泊まらせてくれると言ってくれた。いい友達を持ったなぁと感嘆する。  小野山の家、アパートは古く一人暮らしをしているらしい。ここは叔父さんが経営するアパートで近くに実家があるのだと話してくれた。       「ゆずくんには、秘密…か。  まあ、それは浮気とは思うけど、ちゃんと話したのか?」    そう聞かれあらぬ方へ視線を動かす。話も何も、飛び出してきてしまった手前戻れなくてここにいる訳ですが。  黙っていると、ジト目が突き刺さって痛い。小野山は綺麗…なんだけど口が悪くて喧嘩っ早い。睨まれれば動けなくなる。そんな怖い視線を受け止めきれるはずも無く、話してないと白状してしまった。    「今すぐ帰れとは言わないけどさ…」    小野山の言わんとすることが分かり、首を振る。    「帰りたくない!」    「官乃木って、意外と強情だよな」    強情ってなんだよ聞けば、そのまんまの意味だと言われた。    「俺とかその場で別れるけどなぁ。小野山は別れ話?聞きたくなくて帰りたくないぃ~みたいな」     そんなこと…な…くはないか。確かに帰りたくない理由は怒ってるのもあるけど、だいたいは別れ話が嫌なだけ。なんて傲慢なんだろうと自己嫌悪する。本当なら朔の幸せを願うべきなのにそれが出来ない。いつかこんなことがあるかもしれないって理解してたはずなのに、あまりにも甘やかされすぎて考えれなかった。  ずっとこんな生活が続くと思ってた。        「…ってか、まさか官乃木が男となー」    いきなり過ぎてワンテンポ、いやツーテンポ程反応が遅れた。今なんて言った?おれが男とって、あ、え?!ちゃんとメールの話は男からメールが来てたってことにしたし、彼女って言っ た!    「いや、話す時「彼女」って言葉がすっごい不自然だし、たまに名前出しちゃってるし。それも男らしい名前」     ガックリと首を落とし引いた?と聞くと別にと返ってくる。    「そんな深刻そうな顔しなくたっていいから。別に偏見ない」    「…気持ち悪いとか、ない訳?」    「あったら追い出してるぞ?それとも追い出してほしい?」    ブンブンと大きく首を横に振る。こいつ、やりかねない…。泊めていただきありがとうございますと深々と頭を下げた。    「でさ〜、官乃木く〜ん」    いきなりの小野山の声がからかうようなものに変わる。下げていた頭を嫌々ながらも持ち上げると、ニヤニヤした顔が目の前に。    「お相手はどこのだれかな〜?年上?年下?学校のヤツ?それとも…」    「ま、まてまてまて?!」    小野山の顔はニヤニヤしていて、さぞかし面白い話が聞けると期待しているようだ。怖い、違う意味で怖い!でもっ、    「それはだけは言えないっ」    胸の前で手をクロスさせ×を作る。まだ年上との恋愛話なら話せたけど、俺の場合…いろいろとダメだから。何がダメって、血の繋がった家族…だし。…そう思うなら別れた方がいいのかもしれない。  ずいずいと顔を近づけられどんどん後ずさる。    「なんで〜?あ、近距離恋愛とか?あーそれなら年上の可能性が…」    「ちょ、勝手に推測すんな!」    「じゃ、教えろよー」    さらにグイグイ来られ、そのうちごん!と背中が壁にあたる。逃げ道がない。どうしたらいいのだろうか、言っていい?でもいくら偏見がないからと言ってそれはどうなんだ。    「教えないと、追い出すぞー」    「ひ、卑怯だ!!!」    「さぁさぁさぁ!」    「わ、かったよ…」    もう観念したとばかりに手を挙げて降参すると、救いの手が指し伸ばされたようにタイミングよくインターホンが鳴った。

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