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第5話

 side 朔    目の前で起こったことが理解できない。譲が車道に出てしまって、車が来た。そんなこと言ってられないのは百も承知だが、考えることが出来ない。  車から運転手が降りてきたところでやっと俺も動くことが出来た。    「譲!」    運転手より先に駆け寄り譲を抱き起こした。車の勢いがよかったのか数メートル先まで飛ばされた譲。運転手側もまさか人が飛び出して来るなど思ってもみなかっただろう。  声を掛け軽く頬を叩くも一切返事をしない。それどころか顔が青白くなってしまっている。    -救急車    混乱している頭がやっと指示を出してくれて急いで携帯を取り出して気づく。ぬるりとした気持ちの悪い感触。掌中いっぱいに血がべっとりと付きまとっていた。血を出しているのは譲なのに、こっちの血の気が引く。  血のことを気にする暇もなく番号を打つ。コールが鳴り出すと早く出ろと苛立つが募っていった。    『もしもし-』    コールセンターの人が出た途端自分でも訳が分からない言葉を吐いた。恋人が車道に、血が出ている、顔が青白い、意識がない。落ち着いてくださいと言われて落ち着いてられるかと心の中で叫んだ。   改めてゆっくり出来るだけ落ち着いた口調で話す。    「恋、び…」    だめだ、こういう時は息子と言わなければいけないことに悲しくなる。    「息子が車道に-」    趣旨言い終わり住所を伝え早く来てくれと半ば叫んだ。携帯を服に入れてもう一度譲を抱き抱える。 抱き締めると微かに聞こえる呼吸音が唯一の救いだった。  

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