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第7話
何も喋らないでいると、朔が焦り出す。その焦り方が怪しいと教えてあげるべき?
「浮気じゃないんだ、ほんとうに。譲の方が好きだ」
朔の言葉に、もそもそと布団から顔を出す。携帯のメールとか見ちゃったし、なんていうか…。無言で見つめていると朔はふうと息を吐いた。
「信じていいか分からないか?」
素直に頷く。正直、メールを見てしまった時に「もうダメなのか」とか思ったから実感湧かない。
「…はぁ、仕方ないか。悪いのは俺だな」
朔は諦めたように苦笑する。話を聞こうとせずに飛び出したおれが悪いのに、朔は怒ったりしない。その優しさに心が揺れて涙腺が崩壊した。
「ごめ…っ」
「相談しなかった俺も悪い。…泣くな、譲」
抱き締められて更に嗚咽を漏らす。あれは夢だったんだ、朔はあの人と結婚なんてしないんだとやっと今実感出来ている。
「とりあえず、先生に譲が起きたって言ってくるから」
そう言って朔は椅子から立ち上がる-それを俺は阻止してしまった。朔の服の裾を必死に掴んでいる。
「譲?」
「いっ、行かないでっ。おね、が…」
まだそばにいて欲しい。部屋を出ていってしまったら、もう二度と戻ってきてくれない気がしているから。 分かってる。おれの恋人はそんな事しないって分かってるのに、どこかで信じきれていない所がある。
こんなおれでごめんなさい。
気持ちが伝わったのか、さっきよりも強く抱き締めてくれる腕。
「ナースコール付けるから、な?」
こくこくと頷くと、朔はおれのベッドの柵部分にあるナースコールのボタンを押す。機械的なその音の後、看護師らしき人の声が流れてきた。
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