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第8話
「いや、もう大丈夫だから!!」
事故の結果は、額を数針縫ったのとあちこちの打撲。骨折してなかったのがせめてもの幸いだけど、少しの間入院することになった。
そうしてやっと退院できたその日。
退院、できたのは嬉しいんだけど。
「ふ、風呂くらい自分で入れるからっ」
ずりずりと壁際に追い詰められていく。朔は終始笑顔。手にはタオル。おれは嫌な汗を背中にかいている。怖いってば、ねぇ!
「抜糸するまでは傷口濡らせないんだ、大人しくタオルで傷口塞いでいなさい」
その命令口調にキュン。乙女かおれ。キュン、じゃねぇよ。それより今はもっと大事にするべきことがあるだろっ。
「こっちくんな!」
リビングに鎮座しているダイニングテーブルの周りを朔とぐるぐる追いかけっこ。品がないとかそういうの今はどうでもいい。とにかく今は朔から逃げることが最優先事項だ!
退院して家に帰ったら、とりあえず風呂に入りたいとずっと思っていた。入院中の風呂は朔が許してくれなくて、拭いてもらっていたから。
-譲の裸を他の奴に見せるなんて出来るわけないだろ?
-は?
-風呂は退院してからだ
-え?
-大丈夫だ、仕事終わりに寄って体拭いてやるから。それとも、今がいいか?
-や、やめっ
こんなこともあった。あのいやらしい手つきが今でも鮮明に思い出される。病院という神聖な場所なのに、触られて…。けど今はそんなことより。
「っ捕まえた」
「は、離せ!!」
この状況を打破する方法を見つけ出さねば。リビングだけでは飽き足らず部屋の中を逃げ回ってはみたものの、足の長さは朔の方が長くてすぐに捕まった。それに、体が痛い。どうすれば1人で風呂に入れる?ど、どうしよう!
「ほら、脱ぎなさい」
キュン。だから命令口調にときめくなよ!どれだけ朔のこと好きなんだよと突っ込む。
「あぁそうか。脱がせてほしいんだな?」
「なんでそうなるの?!」
その言葉に戸惑っているうちに、朔が笑顔で、俺のジーンズに手をかける。そして、一気に引きずり下ろした。
***
ザーーーというシャワーの音。それと共に頭を擦る音も聞こえてくる。…気持ちいい。さすが美容師様。でも、
「…さいあく」
「何か言ったか?」
最悪って言ったんだよ。ばぁぁか!
あの後、無理やり服を脱がされそのまま担がれ風呂に入れられた。そして只今。おれは傷口にタオルを当てて、朔に頭を洗ってもらっているところです。
「っ」
あと…時々、おれのにシャワーが当てられたりシャンプーが落ちてきたりするのはわざとだろうか。そしてその度にびくつくのが面白いのか、笑い声が聞こえるのは何故だろうか。
「もういい!あとは1人でできる!」
「怪我人を1人で入らせるわけにはいかないな」
ほんっとに意地悪だ!むっとして、シャワーが終わると同時に立ち上がる。
「退いて。体洗うから」
朔は素直に退いた。けどすぐに俺の取ろうとしてたボディーソープを取られてしまう。ムカついたから奪おうとしたらボデイーソープを上に持ち上げられ、倒れるように朔の胸にダイブ。もうヤケクソだ!とダイブした状態のまま腕を伸ばして、ボディーソープを朔の手から奪い取ろうとした。
「ダーメーだ」
ボディーソープの代わりに返ってきたのは甘ったるい声。丁度耳元で囁かれ、どうにでもして?なんて言いそうになる。
「体、俺が洗うから」
…それは、ダメ。それこそダメ!絶対ヤラシイことされるじゃん!流されるなおれ!流されるんじゃないぞ!
「あ、ふっ…」
なんで流された。丁寧に、手でしっかり体を洗われていく。やだやだと肩を押してみるのに、全く抵抗出来ている気がしない。
「ほんとうに嫌か?」
風呂の縁に座らされ、聞かれる。なんで、おれのも触られてるんだ。そこ、いじる必要あるの。
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