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第10話

 ぺたり。床に座り込むと、朔は俺を軽々と抱き上げた。お姫様抱っこ。 また…?ハジメテをした時もこんな格好で運ばれた気がする。    ざっと体を拭かれて。その間にもずっと朔のは大きいままでこっちが恥ずかしい。隠してよ、と呟いても。    「今から譲の中に入れるから」    なんだよ、その恥ずい言葉。な、中に入れるって…そ、それ…っ。赤くなって馬鹿と睨みつけた。なのに朔は全く意に介さず微笑む。    ベッドにそっと降ろされると心臓がバクバクと高鳴り出す。裸のまま運ばれたから、既にそこが濡れている事が見え見えだろう。-期待、してしまってる。その事に気恥ずかしさが付き纏うも、それよりも早く触れてほしいという気持ちが勝る。    朔に優しくキスをされかけた所で、      ピンポーン。      インターフォンが鳴った。    「朔、誰か来た」    「そうだな」    軽めのキスが交わされる。誰か来たのに、なんで乳首舐めようしてんの。    「あっ…だめだってば」    「…無視しとけばいいだろう?」    「んっ、あ…やぁ」    続行を決断してしまったのか、朔の手の動きは早くなる。赤い舌は、俺の身体を舐りはじめた。        ピンポーン。      「ま、たっ…鳴っ、て」    「…ああ」      ピンポーン。      「ね、えっ」    「…」      ピンポーン…ピンポーン…。    「朔くん、居ますか?」    おんなの、こえ。それは百合子さんと呼ばれていた人の声だった。ああ、事故のとき以来だなぁなんて呑気なことを考えていたから、    「…チッ」    朔の舌打ちにびびった。  だんっ、とサイドボードを殴り、朔は顔が上げる。―こ、こわ…。朔の顔はまるで般若面を被ってるみたいだった。    ***    「…だれ、これ?」    「譲だ」    いや、誰?鏡に映る小柄な女の子は、おれ…だそうです。    白い薄地の長袖ブラウスに、青いチェックのキャミワンピ。ワンピースの裾には花びらの刺繍。頭には、ワンピースと同じいろのカチューシャ。    頬に薄紅色のチーク。アイラインは敢えてぼかして、すこし大人っぽく。アイシャドウはうっすらピンクを。厚化粧はあまりいい印象を与えない、らしい。  仕上げに、濃い茶色の長髪のかつら。    「認めたくない」    「傑作だ。似合うと思ってたけど、まさかここまでとは」    「認めたくないんだけど!」    じょ、女装が似合うとか男が喜ぶと思ってるのか?!時々朔が分からなくなる!    「大丈夫だ、かわいい」    くっそ、嬉しいし!かわいい言われて嬉しいよ…もぅ!なんでおれがこんな格好をしているのか。それはあの人が来たから。        怖い顔をしながらも、朔は服をちゃんと来て寝室から出ていった。もちろん、おれへのキスも忘れずに。聞こえてきた会話はこうだった。    「朔くん、こんにちは」    「すいません、百合子さん。今取り込んでて」    「どうしたの?手伝うけど」    「いや、だいじょ…」    「ううん、今日はゆずくんのお見舞いにも来たから、ついでなら大丈夫よ」    「譲は、今寝てます。……あ!少し待ってください」     「ええ、わかったわ」    これが玄関で話されていた会話。盗み聞きしてたみたいで少し後味が悪い。…でも、聞こえる音量で話すのが悪いと自分に言い聞かせた。  すっかり熱の冷めた身体を起こすと物凄いスピードでドアが開く。    「譲!」    「な、なに?急にドア開けて」    「少しの間女になってくれ」    「な、なんで?」    話を聞いて呆れ返った。その理由が、これである。女の格好をして百合子さんを諦めさせる、そんな作戦らしい。    「だからってさ…人騙すのってどうなの?」    「仕方がない。俺にはちゃんと大切な人がいるということを分からせないと」    ………………た、大切な人…。その言葉に赤面した俺を、朔は鏡越しにじっとみていた。  見ないで、と掌で覆うと後ろから抱擁をされた。  

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