23 / 121
第10話
ぺたり。床に座り込むと、朔は俺を軽々と抱き上げた。お姫様抱っこ。
また…?ハジメテをした時もこんな格好で運ばれた気がする。
ざっと体を拭かれて。その間にもずっと朔のは大きいままでこっちが恥ずかしい。隠してよ、と呟いても。
「今から譲の中に入れるから」
なんだよ、その恥ずい言葉。な、中に入れるって…そ、それ…っ。赤くなって馬鹿と睨みつけた。なのに朔は全く意に介さず微笑む。
ベッドにそっと降ろされると心臓がバクバクと高鳴り出す。裸のまま運ばれたから、既にそこが濡れている事が見え見えだろう。-期待、してしまってる。その事に気恥ずかしさが付き纏うも、それよりも早く触れてほしいという気持ちが勝る。
朔に優しくキスをされかけた所で、
ピンポーン。
インターフォンが鳴った。
「朔、誰か来た」
「そうだな」
軽めのキスが交わされる。誰か来たのに、なんで乳首舐めようしてんの。
「あっ…だめだってば」
「…無視しとけばいいだろう?」
「んっ、あ…やぁ」
続行を決断してしまったのか、朔の手の動きは早くなる。赤い舌は、俺の身体を舐りはじめた。
ピンポーン。
「ま、たっ…鳴っ、て」
「…ああ」
ピンポーン。
「ね、えっ」
「…」
ピンポーン…ピンポーン…。
「朔くん、居ますか?」
おんなの、こえ。それは百合子さんと呼ばれていた人の声だった。ああ、事故のとき以来だなぁなんて呑気なことを考えていたから、
「…チッ」
朔の舌打ちにびびった。
だんっ、とサイドボードを殴り、朔は顔が上げる。―こ、こわ…。朔の顔はまるで般若面を被ってるみたいだった。
***
「…だれ、これ?」
「譲だ」
いや、誰?鏡に映る小柄な女の子は、おれ…だそうです。
白い薄地の長袖ブラウスに、青いチェックのキャミワンピ。ワンピースの裾には花びらの刺繍。頭には、ワンピースと同じいろのカチューシャ。
頬に薄紅色のチーク。アイラインは敢えてぼかして、すこし大人っぽく。アイシャドウはうっすらピンクを。厚化粧はあまりいい印象を与えない、らしい。
仕上げに、濃い茶色の長髪のかつら。
「認めたくない」
「傑作だ。似合うと思ってたけど、まさかここまでとは」
「認めたくないんだけど!」
じょ、女装が似合うとか男が喜ぶと思ってるのか?!時々朔が分からなくなる!
「大丈夫だ、かわいい」
くっそ、嬉しいし!かわいい言われて嬉しいよ…もぅ!なんでおれがこんな格好をしているのか。それはあの人が来たから。
怖い顔をしながらも、朔は服をちゃんと来て寝室から出ていった。もちろん、おれへのキスも忘れずに。聞こえてきた会話はこうだった。
「朔くん、こんにちは」
「すいません、百合子さん。今取り込んでて」
「どうしたの?手伝うけど」
「いや、だいじょ…」
「ううん、今日はゆずくんのお見舞いにも来たから、ついでなら大丈夫よ」
「譲は、今寝てます。……あ!少し待ってください」
「ええ、わかったわ」
これが玄関で話されていた会話。盗み聞きしてたみたいで少し後味が悪い。…でも、聞こえる音量で話すのが悪いと自分に言い聞かせた。
すっかり熱の冷めた身体を起こすと物凄いスピードでドアが開く。
「譲!」
「な、なに?急にドア開けて」
「少しの間女になってくれ」
「な、なんで?」
話を聞いて呆れ返った。その理由が、これである。女の格好をして百合子さんを諦めさせる、そんな作戦らしい。
「だからってさ…人騙すのってどうなの?」
「仕方がない。俺にはちゃんと大切な人がいるということを分からせないと」
………………た、大切な人…。その言葉に赤面した俺を、朔は鏡越しにじっとみていた。
見ないで、と掌で覆うと後ろから抱擁をされた。
ともだちにシェアしよう!