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第11話
もう朔の仕事を恨むしかない。さっき言ったとおり、朔の仕事は美容師であり、メイクアップアーティスト。男の人は珍しいらしい。てかこんなにメイクが上手いなんて知らないんですけど…。
「ほら、リビング行くぞ」
「や、やだやだやだ!やっぱやめる!バレるの怖い!」
「今更何を」
「やだ…」
椅子に座った状態で見上げると、朔がたじろぐ。どう考えてもバレるだろこんなの。バレない方がおかしいって!バレたらどうするんだよ、女装してましたって気づかれたらめっちゃ気持ち悪いんだからな!
「朔…やだ」
もう一度弱々しさを醸 し出しながら上目遣いをすると。
「っ…襲いたい」
逆効果。え、襲われるか女装を見られるかどっちにしろ?なにその二択、有り得ない。
「そそそそそそれもやだ!」
「だったら大人しく来なさい」
でも…とか、だって…とか言ってると、体がすっと浮いた。
-あ。
「やめ、ちょっ?!」
毎度恒例のお姫様抱っこ。もう何回されたんだろ、ってくらい。開けないで、やだ、やめて!と叫んでも朔はずかずかとドアの方に歩いていってしまう。
やだ──!
抵抗をしてみても、何だろうこの格差、びくともしない。男としてどうなの、おれ。
そうして寝室の扉はいとも簡単に開けられ、現れたおれに百合子さんはもちろん驚いていた。
-side朔
「わっ、ばか!やっぱ戻る!降ろして!」
「まぁ、待ちなさい柚果 」
「ゆ、ずか?!」
譲が目を白黒させ、慌てふためいている。もう演技は始まっているのだ。ここで逃げ出されては困る。ちなみに柚果は今咄嗟に思いついた。
バレるかも、とガチガチな譲をそっとの百合子さんの反対側のソファーに降ろす。
「すいません、遅くなりました。柚果が嫌だって言うから…」
「お…っわたし、のせい?!」
ちゃんとわたしと言い換えているが、それがぎこちなくてくすっと笑う。可愛い。さっきよく襲わなかったなと自分を褒めた。
「ど、どういうこと?…朔くん…」
「ああ、紹介が遅れました。俺が愛してやまない大切な人です。前々から紹介したかったんですよ」
「そうじゃなくって!」
ヒステリックな声に、 譲は肩をびくつかせた。怖がっているのがよく分かる。元より女の人が苦手な譲にとって、この場は多分不愉快極まりないのだろう。早くこの女 には辞退してもらわないと。
「大声出さないでください。柚果が怖がってしまうので」
「っ、わ、わたしより、その子が好みなの?どうして?私の方が可愛いのに。胸は大きいし…お金持ちだし…、それに」
「そういうところですよ」
言葉を遮って言う。聞いていて苛立ってきた。あの親切な課長から、どうしてこんなのが生まれてくるのか。甘やかされたか、それとも違うなにかか。だが今となってはどうでもいい事だ。
「そういう、自分勝手なところが、苦手なんです」
「じぶん、かって…?」
「そうです。譲が怪我をした時だって、1度も見舞いにも来ないでおいて…」
「そ、それは」
「普通、結婚したいと思う相手に子供がいて、もしその子が怪我でもしたら見舞いに来るものです」
静かに追い詰めていく。大切な譲に心配させてしまった、その事への八つ当たりも少しあったかもしれない。
「…本当に愛しているんですか?」
生気のない声で何を言うかと思えば。もちろんですと答えると証拠をくれと騒ぎ出した。
「最近は、レンタル彼女みたいなのもいるでしょう?!」
テーブルから身を乗り出し、譲をじろりと睨めつけてる。おかげでひっ、と悲鳴をあげ、俺の腕を必死と掴み震え上がった。
「キスとか出来るんですか?!本当に?!」
「できます」
なぜそこまで疑われなければいけないのか。そうまでして引き裂きたいのか。…じゃあ、乗ってやろうじゃないか。普段ならこんな誘い、いや挑発になんか乗らない。ただ…この関係を貶された気がした。
譲の髪をなで、こちらを向けさせる。
「こ、朔?」
「譲…」
百合子さんに聞こえない程度に名を呼び、髪からするりと頬を撫でていく。不安そうに見上げる目。かわいいかわいい恋人。絶対に仲を引き裂けない。百合さんがいる目の前で、俺は譲にキスをした。
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