32 / 121

第2話

 その日は休日で、でも朔は仕事だった。いつもの休日と同じように朔を見送って、二度寝して、起きたら洗濯物を干した。部屋が埃っぽい気がしたから掃除機を掛けて、することが無くテレビを見ていたらあの報せは入ってきた。    ガラスに頭をつけ、どうして昨日「したい」と言った朔の誘いを断ったんだろうと打ちひしがれる。朝好きだって言えばよかったとか、抱きつけばよかったとか、二度寝せず電話していれば声を聞けたのにとか、色んな自責の念を感じていた。    「官乃木さんの息子さんですか?」    後ろから声を掛けられて振り返りはいと言う。若年の医者だった。それでも集中治療室を任せられているということは、それなりに経験を積んでいるんだろう。こちらへと通されたのは小さいベッドと枕、あとは医者用の机が置いてある簡易的な問診室。    「事情は電話で聞かれたと思われますが、」    「あの!こ、う…いや父は大丈夫なんですか?」    医者の説明を遮り容態の話を促す。どうして落ちたとか、体がボロボロだとか、どうでもいい。助かるのか、ダメなのかを先に、聞いておきたい。    「かなり、危ない状態です。階段から落ちたとは思えないほど重症です。…これは言い難いのですが、腕や足の怪我は誰かによって負わされたものかと」    「誰かって、誰ですか!」    どうして朔がそんな目に合わなければいけないんだ、とあまりの憤りと悔しさで立ち上がった。    「朔は助かるんですかっ?」    掴みかかりそうなところを看護師に抑えられて座らせれる。朔と言ってしまっているのに医者も気が動転しているのか違和感を忘れているようだ。    「…今は何とも」    ひくり、と喉がなる。目尻一杯に涙が並々と盛り上がり一気に崩壊する。顔を掌で覆ってぐらつく頭部を支える。  朝は元気だった。昨日も元気だった。一昨日も元気だった。ちょっと前は電話越しに愛してると言ってくれた。    今はその姿すら過去になっているという事実に、もう二度とそんな姿すらを見れないのではないかと考え始めていた。  

ともだちにシェアしよう!