36 / 121
父さん、Happy Birthday! 1
くらーい話が続いていますので、ここいらでガラリと話を変えます
***
「あぁぁあああ!どうしよう!」
ネットを適当に見漁り、悩み続けてはや三十分、 それでも何も成果は上がらない。
ネクタイ、ネクタイピン─だめ、朔はスーツを着ない。髪留め─だめ、朔はそこまで髪長くない。ブレスレット─美容師である朔は、整えてる人の髪が絡まるといけないから付けれない。
その他にも。財布、服、手袋、マフラー、本、靴、時計、お酒、タンブラー、携帯カバー、ハンカチ、キーケース、カードケース、名刺入れ、定期入れ、香水、カバン、美容用品、入浴剤、ストール、コーヒーミル、コップ…。
色々候補は挙げたけど、どれもこれも朔には必要なさそうなものばかり。やがてコップから茶碗に移り、夫婦茶碗 に移動したところで気恥ずかしさによりパソコンを閉じた。
今日、12月25日は朔の誕生日だ。小さい頃は毎年祝っていたけれど、反抗期が来てからは全くご無沙汰だった。今年はもちろん祝う。だって、…だ、大事な…こ、恋、恋人だし。
自分で言っておいて顔を赤くして羞恥に耐える。
誕生日とクリスマスが被ることに、朔はあまり良い感情を持っていないらしく、朔が子供の頃は一緒くたにされて憤りを覚えてたみたいだ。おれとしては運命だ、なんて考えちゃってるんだけど。
運命と思うその理由。それはおれの誕生日も12月25日、朔の誕生日と同じ日だからだ。もう出会うべくして出会ったとしか言いようがないこの日付。…まぁ息子だから会うのは当然なんだけど。
「んー、決まらないー」
自分の誕生日そっちのけで朔のことを考えるあまり、電話に出るのに遅れてしまった。
「はい!もしもしっ?」
電話の相手はもちろん。
『もしもし?譲?』
…はい違いましたぁぁぁ!うきうき高声で出ちゃったよ最悪だよ!取り返しのつかない間違いをした事で、夫婦茶碗を見た時より、大事な恋人だって言った時より恥ずかしくなった。
「う、ん。どうしたの雪姫」
『うわ、あからさまにテンション下がったぞお前。さては恋人だと思って出たな?この幸せ者め』
電話の相手よ小野山 雪姫、こいつはこういう人だ。面白いことがあるとことんいじってくる。何度か話しているうちに打ち解け、最近では名前で呼ぶ間柄になった。
「そう言う雪姫だって、おれが一学期の始業式の時と同じように首にキスマーク付けてただろ」
『い、言うな!!』
自分ではいじる癖、小野山自体はいじられ慣れていないらしい。初々しい反応が見れて楽しいから、近頃キスマークネタで遊んでいる。
「あれ、恋人だよなぁ?彼氏ですかぁ?」
『くっそ…覚えてろよ、譲』
「何も言わないから肯定とみなす」
『おい!』
少し前、小野山が学校を休んだ。大丈夫だろうかと心配していたら、次の日首にキスマークをつけて来るものだから驚いた。─そういう意味で、休んだのだろうかと。
流石に見える位置にあるのは可哀想だったから、絆創膏を渡したら担任の顔を今にも殺しそうな形相でにらんでいた。まぁわかりやすいことこの上ない。休み時間に、どっちが禁断だよと笑って突っ込んだら椅子を蹴り飛ばされすっ転んだのは言うまでないだよう。
あ、と言うか今のうちにプレゼントのこと相談しよう。
「なぁ雪姫。男の人へのプレゼントって、何がいいと思う?」
『え、譲のおとうさま も誕生日近いの?』
すっっごくおとうさまって強調された気がするけどこの際無視だ。
「そうなんだよ。でも朔って何でも完璧だからさぁ…何あげたら良いのか分からないんだよ」
『惚気けてんじゃねぇよ。ってか、俺もその事で電話したんだけど』
まじか。そっちの彼氏 の誕生日は?と聞いたら、12月31日らしい。
「あげるもん決まった?って、決まってたら電話してかないか…」
『そうなんだよなぁ…あいつどれあげても喜ぶだろうし』
「分かる」
それから二人であーだこーだ言いながら考えてみたけど、ダメだった。思いつかない。そのうち小野山が叫んだ。
『だぁぁ!譲、ここはもう恥を偲 んでこうしようぜ!』
「なに、なんかいい案思いついたのか?!」
『もうこれしか残ってねぇ!よく聞けよ!──』
小野山の案は正しく名案で─だけど確実に二人揃って死ぬだろう迷案だった。
ともだちにシェアしよう!