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第2話
side朔
仕事から帰ってきたら、物凄い異臭が漂ってきていた。何かが焦げた匂いと…甘ったるい匂い。
何事かと駆けつけると、キッチンからそれは流れてきていた。
見てみると明け開かれたオーブンには真っ黒な物体があり、壁や床にチョコや生クリームなどが飛び散っていおり、見事な大惨事が出来上がっている。
呆然と口を開けて目を瞬かせていると、朔?!と驚く声が聞こえ振り返った。
「譲…?」
振り返った先にはエプロンをした譲が…譲が…?なぜだろうか、エプロンから除くのはムダ毛のない白い生足。全体を見ても布らしきものはなく、あるのは、エプロンのみ。どこで、いつのまに買ってきたのかピンクのヒラヒラエプロン。それもハートの。動けば胸元が見えてしまいそうなほど、ハートは大きく切り開かれている。
「譲、その格好」
「へ…ま、まだ見ちゃダメー!」
自分の身体をみて、赤くなったあとたたたっと軽快な音を立てて風呂場へ逃げていく。その時後ろ姿で見えたのは……、まんまるい尻。考えあぐねた結果は
-裸エプロン?!
胸元を隠す理由はそういうことか!
「譲?!」
こちらも急いで風呂場に向かう。閉じられた風呂場のドアを開けようとすると中から押さえているようで、開かない。
「開けてくれないか」
「ま、って!今脱ぐから」
おいおい。脱がれたら困るんだよ。折角してくれているなら見たいのに。ぐ、と手に力を込めて力づくでドアを引っ張る。
「開けないでえええ!」
中から絶叫が聞こえて、ふっと扉が軽くなった。その隙に開けると、脱衣所の端で小さく丸くなっている譲。それもこっちに背を向けているから、丸くて白いもちもちの尻が、丸見え。
「…可愛い」
思わず呟くと開けないでって言ったじゃん、と恨みがましい声が届いた。
「今日…遅めに帰るって聞いてたから…ケーキ作って待ってようとしたのに、帰ってくるの早いしケーキ失敗するし、めっちゃ汚れるし」
「ケーキ?」
「朔…今日誕生日じゃん」
言われるまで忘れていた。反抗期が来てからは譲が避けていたから、誕生日なんてあってないようなものだった。
いや正確には譲の誕生日と思って過ごしてきたから、忘れていた。
「それで…裸エプロン?」
「本題そっちじゃないから!」
もうヤケクソ!といった感じで譲がエプロンのポケットからリボンを取り出して、ピンク色のそれをこれ見よがしに首に巻くと蝶々が出来上がる。そして一言、「どうぞ」
「…は?」
一瞬何がしたいのか分からず腑抜けた声を発すると、譲が怒る。
「は?じゃない!プレゼントなんです、これが!全然思いつかなかったんだよ!朔なんでも完璧で、欲しいものとかなさそうだし!」
それで誕生日プレゼントは自分にしたと?ケーキまで準備してくれただけでも嬉しいのに。どこまでこの可愛い恋人は俺の心を擽るんだ。
「有難く、頂くことにする」
ぐい、と譲の身体を引き寄せ胸の中に抱き込む。そのまま可愛らしい尻に吸い寄せられるかのように手を伸ばし触る。
「というか、今日譲の誕生日でもあるだろ?」
「あ…う、うん…っ、触んなっ!」
尻を揉むと腕の中で暴れ始めた。
普通の高校生なら誕生日に親に何かを強請るはず。それをせずに人の誕生日を優先するなんて。
急に譲の全てが愛おしくなって、ギュッとさらに抱き締める。だが尻を揉むのは止めない。
「ん…朔、苦しい」
「ありがとう、譲」
「うん、でも…ケーキ失敗した」
涙声の譲。それすら可愛い。
わざと感じるように耳元で大丈夫だと囁きかけた。ケーキを買ってきていたと。
「まさか作ってくれるとは思ってなくて、な。譲、誕生日おめでとう」
「っ、朔も!朔もお誕生日おめでとう!」
泣きそうな顔が一転、嬉しそうな顔になって笑いかけてくる。背中に手を回して来たかと思えば、次の瞬間ガチ、と歯と歯がぶつかっていた。
「…いたい」
「自分からキスしておいて痛いって」
「下手くそでゴメンなさい」
「…いいよ、可愛かったから。じゃあ、有難く今から頂くとしよう」
ひょい、と譲を横抱きにし寝室へ運ぶ。その間、やめろ、だの、降ろせ、だの言ってくる。一切合切無視してベッドに着いた途端放り投げた。
衝撃に耐えるために目を瞑る譲に伸し掛る。
「あ、あああ…の、ケーキ。ねぇ、おれケーキ食べたい」
「後でな」
「今がいい!」
「俺は今から甘いケーキ食べるから」
「俺の分は?!」
「─譲の誕生日プレゼントは、俺でいいよな?」
してやったりと笑うと見る見るうちに譲の顔が赤に染まっていく。最終的には顔を覆い隠してしまった。メリークリスマス?と言えば、かなり聞き取りづらかったがメリークリスマスと返ってきた。
小さい頃は誕生日が嫌いだった。大人になって、初めて貰ったプレゼントは譲だった。まさか自分の誕生日に生まれてきてくれるなんて思ってもみなかった。こんな大事なプレゼント、絶対手放したりしないだろう。
感謝の気持ちを込めて、そっと譲の唇にキスをした。
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