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父さん、お別れして 6

 翌日になっても朔は起きなかった。残り一日。明日起きなければ…助かる見込みは格段に下がる。下がるだけで、助からない訳ではない。  なのに、おれの周りで朔は死人扱いとなっていた。      祖父母の帰り際のこと。    「部屋を個人部屋に移しておく。担当医も付けてある。今は体調を整えておきなさい。話はそれからだ」    祖父はそう言っておれと祖母を置いていった。体を離す祖母。そこにはつい先程までおれが「優しげ」な顔だと言っていた仮面があった。    「相変わらず連れない人だわ。譲、あの人はああ見えて、あなたに会えて嬉しいのよ?」    おれは、会えて、嬉しくない。会いたくなかった。  耳元で呟かれた言葉のせいで頭に何も入ってこない。ただ、もう二度とこの二人に会いたくないとだけ思うことが出来た。    怖い、さっきこの人はなんと言ったのだろうか。『私たちの大事な跡取りだもの』その後。    ─私たちの大事な、息子だもの    おれが、息子?違う。おれは朔の子供で、この人からは産まれていない。勘違いしているのかと思ったけれど目が笑っていない。本気なんだ、この人。  髪を撫でる手が、肩を掴む手が、おれを見る目が、優しげに見える顔が。全部がおれを愛おしいと物語っている。まるで子供に接しているかのようだ。    「じゃあまたね、譲」    最後に頬を一撫でして祖母は帰った。      祖父母は、朔は自分たちの息子だとまるで思っていない。それどころか、おれを息子だと思い込んでいる。    「…起きてよ、ねぇ」    話しかけるがいつまで経っても返事は返ってこない。当たり前だ、目の前の人は眠っているのだから。いつ覚めるか分からない眠りについてるのだから。  ─朔が起きてくれないと、おれ、大変なことになりそうなんだよ?起きろよ…いい加減。      今は抜け出し、無理言って朔に会いに来ていた。病室から出ることは、何故か知らないけど禁止されてる。多分、祖父母の仕業(しわざ)…だと思う。      恋人の管の付いた手に縋り付いて泣く。ぱたぱたとシーツの上に水滴落ちた。これ、なんだっけ…涙?でも何で泣いてるんだろ。朔は起きるって信じてるのに、心のどこかで二度と目を覚まさないのではと思っている自分がいるからかな。    起きて、起きて、お願いだから。      「なにしとるんだ譲!」    祈りを込めていたら集中治療室に怒号が響き渡った。他の患者がびくりと肩を跳ね上げたのを目の端に捉える。    「っ、あ…」    重い頭を(もた)げると、こめかみに青筋を立て怖い顔を殊更(ことさら)鬼のような形相にした祖父が立っていた。    「こんな所に来て…儂は会いに来て言いなど言っとらんぞ!」    「ひ…あ、ごめ…ごめんなさっ」    怒号に狼狽(うろた)え、(ども)る。それすら気に入らなかったのか加えて咆哮(ほうこう)が飛び散った。    「謝れもせんのか(たわ)け!それに、誰がこんた役立たずに触れていいと言った!お前までこうなったらどうするつもりだ!来い!」    ぐいと襟首を引っ張り挙げられ引き摺られると、首が絞まって苦しくなり暴れた。朔から離れなければいけないのも嫌で、暴れる。祖父は無視を決め込むつもりか、ぶつぶつと何かを言いながらおれを病室から引っ張り出した。  

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