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第8話
意識が、戻った。朔が目を覚ました。
言葉を理解した途端突き動かされるように走りだす。黒服を押しのけドアに縋り付き開け放った。黒服達は全員部屋の中で医者と乱闘していたから、外には誰もいない。
部屋の外に飛び出したおれを捕まえようと後ろから「待て!」と声が掛かる。高校生一人に大人が三人、必死に追いかけっこをしているのは、傍から見ればおかしな光景だと思う。
でも今はそんなことどうでもいい、とエレベーターホールに向かった。
朔に会えたら何を話そうか。まずどれだけ心配したかを怒ってやる。ボロボロの状態を見た時心臓止まりそうになったんだぞ!って。でも、前におれも事故でまる二日眠ってたからおあいこだ。
それから、朔が眠っている間に祖父母が来たことも伝えなければいけない。二人とも、とても怖い人だった。早く家に帰りたい、ってのも言わなきゃ。おれも帰れてなくて洗濯物溜まってるし…家に帰って、安心したい。
降りてこないエレベーターにやきもきして非常階段を駆け下りる。目指すは朔の病室、集中治療室はすぐに治療出来るようにここの病院は一階にあった。
一階に着いて看護師に飛びついた。走りっきりで息切れがすごくて、ちゃんと話せたかどうか分からない。
「官乃木の…っ、息子です!はぁ…め、目が覚めたって…き、……ふ、はぁ…聞い、てっ」
「お、落ち着いてください」
「は、…はい…っはぁ…」
案内してくれるという看護師に付いていけば、ベッドに横たわってはいるものの目を開けた朔の姿が見えた。感極まり疲れてるのを忘れて駆け寄った。
目がおれ確認して、怪我してない方の手で酸素マスクをずらした。
「…ゆずる」
何週間も聞いていない気がする懐かしい声に、いつの間にか涙腺が決壊していた。
「おき、てる…っ」
「そりゃ…おきる、だろ」
「だって、今まで…眠って…」
「…眠って?」
眉が顰められる。あれ、何か違和感がある。ずずっと鼻水を啜 り話を先に進めた。
「寝てたんだよ、今まで。階段から落ちて」
「かい、だん…」
「………朔、どうしたの」
覚えていない、みたいだ。どこから、覚えていないんだろう。階段のところから?その前から?おれのことは覚えてるみたいだけど、朔、と名前を呼んだら不思議そうな顔をされた。
「ここは…」
「病院。朔階段から誰かに落とされたって」
「……全然、おぼえていない」
「頭打ったって、医者が。朔、大丈夫?」
視線が天井を大きく仰いで再びおれに戻ってくる。記憶を探っているらしい動き。何を思い出そうとしているのか、分からない。嫌な予感がするのは、朔の口がおれの名前を呼んだから。
「どうして、父さんの名前…呼んでるんだ?」
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