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第10話

 質問攻めを(かわ)しているとようやく朔は寝た。やっぱり疲れてるじゃん、とため息をつく。  今しがた目が覚めたばかりで、記憶がないことに気が滅入っているはずだし、おれを質問攻めにしている間もすごくしんどそうな顔をしていた。寝てさえくれれば、体力は段々戻るだろう。      それと、朔が寝た直後から鋭い視線が突き刺さっている。病室の外から痛いほどの視線。振り向きたくないけど、きっと振り向かなければ殴り込みにくるだろうから…。  振り向くと、おれが引っ付いてたのと同じようにガラス越しに祖父母が見ていた。    「…うわ」    思わず嫌悪を口に出していた。前にここで大声を出したことが仇になり、医者に面会拒否にされ睨みつけることしか出来ないらしい。いやでも、ガラス越しで見えてるし。    「…朔、おやすみ」    そっと朔の顔にかかった前髪を払う。  覚悟を決めて病室から出ると二人とも無言で、その空気が酷く澱んでいた。静かだからこそ、祖父の舌打ちがよく聞こえた。言いたいとこは分かる。─目覚めなければ良かったのに。どうせそんな事だ。      今にも悪態が耳に入ってきそう。それが嫌でこっちから喋ってやった。    「父さん、起きました」    「知っておる」    すぐにカウンター攻撃が帰ってきた。そう言うならちゃんと喋って欲しい。 祖父は腕を組んでおれをじろじろ見ていて、祖母は顔を手で覆っている。沈黙が続くと耳鳴りがしてきた。    「おれは…跡取りには、なれません」    はっきりそう言うと祖母が(かぶり)を振る。    「いいえ…いいえ、あなたは私の大事な息子よ。あんなのの息子じゃないわ!私が産んだのよ!」    徐々に大きくなる声で、祖母が癇癪を起こしかけているのが分かる。覆い隠した顔に怖い表情を浮かべているに違いない。  ここで「おれはあなたの息子じゃない」と吐露した所で、聞きいられる筈はなく無視か怒鳴られるかのどっちかだ。いっその事暴露した方が楽だ、と悩んでいたら。    「譲」    祖父が会ったときから一度も聞いたことのないような優しい声を出した。そんな声を出されると逆に警戒してしまう。─何か企んでいるな、というおれの判断は見事に的中した。    「あれの治療費の話だ」    「治療費は…払って、下さると」    「そうだ。しかしな、譲。この世にそんなうまい話はそうそうない」    なにが、言いたいんですか。とぱさぱさの唇から音を絞り出す。口腔内が乾いていった。    「譲は賢いから分かるでしょう?」    祖母の声音は震えていた。期待してるって感じがしている。  分かりたくなかった。おれ結構馬鹿なのに、二人の要求が分かってしまった。    つまりは、榊田家に来なければ朔の治療費は出してくれないんだ。

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