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第11話

 これは立派な脅しで、脅迫罪だ。頭の中で警告音が鳴り響き、こんな卑怯なことは無視するべきだと訴えていた。でも下手に出れば危険なことも知っている。    「…ひ、卑怯です」    「卑怯?何を言っとる。これはちゃんとした取引だ」    取引…?これのどこが取引なんですか。榊田家の跡取りにならなければ、場合によってはおれと朔は生活出来ないかもしれないんだ。それだったらこっちも訴えることを考えます。    ─なんて、言えるはずがない。言えばどうなる。治療費や入院費を払ってくれる件はもちろん、おれが一日入院した件の支払いもないと思っていい。    それに…たとえお金を借りようとしても、二人のことだ、先に手を回すだろう。榊田は大手企業だからかなり富豪なのだ。金にものを言わせて、何もかもを奪い去っていく。  勝てない、どうにも出来ない。    「…すこし、待ってもらえますか。考え、たいです」    「いくらでも待ってやる」    祖父は勝ち誇った顔をしていた。自分が勝てるという確証でもあるのか。実際あるんだろうけど。    ***   手続きを済ませると今日は帰れることなり、家に帰ってさっそくベッドにダイブした。足をバタバタさせて、枕に大声で叫び散らす。  「ばかやろぉぉぉぉぉぉ!なんなの意味わかんない、跡取りになんかなるか!あほなの?ばかなの?信じられるかくそぉぉぉぉお!」    一通り叫び終えると枕から体を起こし長い長いため息をついた。この数日間でなにがあった?どうしてこうなった?  一昨日は、朔が階段から落ちておれが過呼吸で倒れて。  昨日は、朔の祖父母に跡取りになること決定事項にされて。  今日は(うち)に来ないと治療費払わないぞって脅されて。  まず朔が階段から落ちるのが悪いんだ。いや違う、朔をあんな目に合わせた奴が悪いんだ!ここは事の発端を作った奴を恨むべきだ!    「だからって、恨んだところでどうなるんだよぉぉっ」    枕を壁に投げつける。ボスん、と腑抜けた音を立てて落ちた。  恨んだって、犯人が出てこないんじゃどうにも出来ない。犯人殴りたい。正直、それだけ朔に怨念持ってた危ないヤツだし挑発したら殴ってきそう。そしたら正当防衛で殴り返せるのに!    というよりも、そんなことしても意味無いんだよな。朔、おれのこと忘れてるから、何してるんだった怒るだけ。甘いものは何もくれない。ため息をつく。もう何回したかも忘れた。    好きって言い合って、身体も重ねて、愛してるとかも言った。ラブラブだったはずだ。幸せな時間だったんだけど、もう二度と記憶は戻って来ないかもしれないんだよな。  寧ろ、これで良かった?これで朔はまたノーマルに戻れて普通の恋ができる。おれは…まぁいいや。    今まで負い目を感じていた事からやっと逃げ出せた気がしていた。結局は両思いだったけど、おれへの恋心を忘れれば朔は普通に女の人が好きなはずだ。じゃなきゃ、おれは産まれてないし。    「あぁー…寂しいなぁ」    独り言が寝室に寂しく響いた。

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