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第12話
頭を強く打っていたから障害が残るかもしれないと言われていたのにも関わらず、朔の調子は日に日に良くなっていった。腕や足の怪我も見る見るうちに回復している。
…記憶を除いては。
見舞いに行く度に、朔はおれを質問攻めにした。どうやって生活していたかとか、学校のこととか、自分の仕事についてとか。さすがに仕事に関してはおれは答えられなかった。それに百合子さんとの縁談を断った理由も。だって、「恋人がいるので断りました。その恋人はおれです」って…言えるかよ!
どうやって説明しようか悩んでいるうちに言わなければいいやということになった。
「ああ、そうだ。…父さ、ん」
どうした?と父さんがおれ頭に手を置く。なんていうか、子供扱いされてる感じが半端なく伝わってくるんだよな。父さんの中ではおれは成り立てほやほやの中学生、結局のところまだ小学六年生あたりだと思われている。仕方ない、んだけど…なんかやだ。
「あの、さ…言いづらいんだけど…。父さんが眠っているうちに…父さんのお父さんとお母さんが来たんだけど。あ、おれからしたら祖父母──」
言い終えるまえに口を噤んだ。何故って、朔が今にも人を殺せそうなほど殺気立ったから。こんな怖い朔見たの初めてだ。
「それで、何か言ってたか」
苛立つ口調を隠しもせず問う。これ、言ったら血管切れそう。今だってストレス抱えてるはずだし。
「べつに…」
「嘘、下手くそだなぁ」
「う、嘘じゃないし!」
「必死にするのが怪しいぞ?」
朔の息子ですからね。必死で百合子さんの事を言い訳していた朔も充分怪しかったけど!と叫びそうになって飲み込んだ。朔このこと忘れてるんだった…。
おれがしゅんとしたのを、嘘が見破られて悔しがっていると勘違したらしく朔がさらに問い詰める。
「なんて言われたんだ。まぁ、大方父さんが死んだら譲は跡取りになってもらう!とかだろうけど」
「なんでわかったの?!」
「…本当に言われたのか」
嘘、カマかけられた?信じられないと睨みつけたけど知らんぷり。
「まだ中学生上がったばっかりなのに、跡取りとか…あの二人は何言ってるんだ」
「父さん…おれ高校二年生だから」
「ああ、そうだっけ。ごめんな譲」
そう言ってまた頭を撫でる。撫でて欲しい訳ではないけど─でも安心するから身を任せる。
「とにかく、何かあったら父さんに言うんだぞ。父さん強いから頑張るよ」
頭撫でるのはいいけど子供扱いはやめて欲しい。父さん強い、とか高校生にいう言葉じゃない、聞いてて恥ずかしい。でも本当に小さい頃に戻ったみたいに懐かしく感じる。小さい頃は「父さん」じゃくて「お父さん」とか「パパ」だった。その頃には母さんはもういなくて、何度も「お母さんがいい、お父さん嫌いだ」と泣いて朔を困らせていた。
今思えば、不憫なことだろう。母さんを亡くして悲しいのは朔のはずなのに、おれの世話で悲しみに浸る時間すらなかったんだから。
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