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第14話
朔が退院するまで祖父母は一切接触してこなかった。一度電話で『迎えにいく』と言われたきり何もなく、もう忘れてしまったのではないかと思い始めた頃事件が起きた。
「官乃木さんご退院おめでとうございます」
黒服が一人、朔に近づいた。不審そうな表情になる。
「誰ですか…?」
「譲様からお話はお聞きになっておられませんか」
「譲から?」
まだ治っていない足の骨折を松葉杖庇いながらこっちを向く。すごく言いたげな顔。なんか言ってないっけ、と振り返り……思い出す。
迎えにいくと聞かされ、「取引」の件をまだどうするか決めてないから無理だと断った。にも関わらず迎えを寄越したらしい。勝手すぎる。
「あの…お断りした筈ですが」
「断ったって、何を」
「茂雄 様からそのようなお話は伺っておりません」
「…譲?」
あの人茂雄って名前なんだ。知らなくていい情報を知ってしまった。
「でも何も用意してないです」
「身一つで来いとのご命令です」
「譲、説明を」
「こ、困ります!」
朔を無視して会話を続けていると話を聞け!と一喝された。慌てて謝りちょっと前に電話があったこと、電話で迎えにいくと言われたことを「取引」のことは触れずに話した。事後報告はやめなさいとため息をつかれた。
「なら俺も同行します」
不意を付かれたその答えに目を見開く。同行するということはつまり榊田まで来るということで、来るということは「取引」のことも分かってしまう訳で。それは困る。だめ!と声を荒らげた。
「なんで譲がだめなんだ?この人が決めるだろう。あの、茂雄様……には、俺は着いてくるなとは言われてないですよね?」
茂雄様と口にした朔は如何にも吐き気を催してますって顔してた。
「そうですね、仰っておりません。では付き添いとしてどうぞ」
黒服の人は平然と言ってのけ前を向いて歩き始めてしまった。朔は既に追いかけていておれも後に続く。その間も「着いてこなくていい」「一人で大丈夫」「父さんは休んでた方がいい」と訴え続けたが効果はなかった。
黒服が止めている車に近寄る。これは…所謂 リムジン、というものだろうか。ドアを開けようとしたら、すぐに黒服が飛んできて素早くドアを開けてしまう。
「ありがとう、ございます」
「礼など結構です」
黒服がなんともない顔でぺこりと頭を下げた。
ついてこないで欲しいと拒否しまくったせいで車の中は榊田家に着くまでお通夜モードだった。こんな事になってバレて怒られるくらいなら言ってしまえば良かったと思っても後の祭りだ。
「着きました」
行きしと同じで自動ドアの様にドアが開かれる。
目の前に現れたのは豪邸。大きな石垣が左右に伸び終わりが見えない。長めの石畳の先には荘厳な門が構えており、中には和風なお屋敷が聳 え立っていた。
「…すご」
開いた口が塞がらないとはまさにこの事。朔は、ずっとここに住んでいたのだろうか。
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