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第16話
手を引かれるまま屋敷から出るとタクシーが既に呼び寄せられていた。だけど朔はあろうことかそれに乗らず自分の携帯でタクシーを呼んだ。なんで?折角ここにあるのにと見つめていたら視線に気づき言いたいことが分かったらしく答える。
「榊田に厄介になることほど、面倒なものはないからだ」
ちっと舌打ち。朔は怒るとその日一日は大体機嫌が悪い。やっと、二人で家に帰れるのに嫌だなぁ…と俯くと
「譲、ごめんな。怖かったろ?舌打ちなんかされたら怖いよな」
謝られた。また子供扱い、だ。頭を撫でるのも忘れていない。舌打ちなんかで怖がらないし。きっと家に帰ったら「取引」のことを尋問されるのだから、今のうちに言いたいことぶつけておこう。
「あのさ…言った通り、おれ高校生で、子供扱いはやめて欲しいんだけど」
こんなことぶつけるべきで無いのは、分かってる。朔だって記憶が混乱して、おれを中学生だと誤認識してしまってるだけだ。けど、恋人であった時にされた対等な関係を消し去ることが出来なくて、苛立つ。ただの八つ当たりだ、最悪最低すぎる。
「…そう、だったな。悪い」
ほら、こんな表情をさせるつもりなんて無かったのに。困ったような、悲しいような、形容し難い顔をされてはこちらが黙るしかなくなる。このぎくしゃくは、主におれが引き起こしていものだ。
タクシーが来て、運転手が勝手に喋ってくれていたから静かじゃなくなり大分楽だった。
気まずい雰囲気で家につき、これから尋問されることも忘れて部屋に逃げ込む。もちろん許されることなく、朔はどうどうとおれの部屋に入ってきた。反抗期のおれだったら「入ってくんな、くそっ」なんて罵っていただろう。
「なに?」
「言っただろ、帰ったらちゃんと話そうなって」
「…ほんき?」
咎めるような視線を投げられ口を噤む。
「話すまで、ここから動かないからな」
どすんと座ったのはおれのベッド。そこにいられると睨まれたら部屋を出るに出られないし、寝転がられれば寝るに寝られない。無駄な抵抗だと知っているが、取り敢えずぐっと朔の肩を押してみる。
はい、動きませんでした。諦めます。無駄な抵抗その二で、何の話だっけと惚けてみる。
「どこまで隠し通すつもりだ」
「…………できれば、どこまでも」
「譲、お前色々隠し事してるよな?今日の「取引」のこととか、父さんが目を覚ました時言ったこととか」
嫌な言葉に眉を顰めた。まだ覚えていたのかと記憶力に文句を言いたくなる。
「それは忘れてって言っただろ」
「説明しなさい。今までのこと、全部。冗談だった、驚かせたかったはなしだ」
「しつこいっ」
思わず叫ぶ。どうしてそこまで執着するのか、冗談でしたで終わらせておけば解決する話をいつまでも根掘り葉掘り問い詰めれる理由が分からない。「朔」は好きだけど、「父さん」である朔は好きじゃない。命令するばっかりで自分のことは話そうとしないからだ。
「忘れてって言ってんじゃん、言う事聞けよ!」
「いい加減にしろ」
放たれた低く地から響くような声。デ、ジャヴ。
「そんなに父さんが嫌いならそう言えばいいだろう」
こんな会話、前にもした。おれが恋心を隠すのが辛すぎて家で計画を練っていた時だ。
「ち、ちが…」
「何が違うんだ」
「っ…ごめ、なさ…ぅ」
あの時なら、好きって言って終わりだったのに、今は言えない。言っちゃいけなくなった。好き、好き、大好き。でも言葉に出しちゃいけない。朔には…ちゃんとした道 を歩んでほしいから。
ぼろぼろと泣き始めたおれを見て朔は狼狽していた。
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