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父さん、さよならして 1

 曇り空をぼんやりと眺め、今朝のことに思いを馳せる。大丈夫だろうか、と。        夜中に起きたら、父さんが知らぬ間に部屋に入ってきたらしく椅子に座って眠っていた。困惑するおれを差し置いて、気持ちのいいほどの欠伸と共に起きてきた。    『なんで、いるの』    『……………』    目は開いているけど、寝惚けているのか言葉を発しようとしない。    『……もしもーし』    『……………』    『ねぇ起きてる?』    『……………』    『父さんってば、ねぇ!』     声をかけ続けても反応が一切見られず、でも射抜くような視線はおれを追いかけ続けている。…ごめんだけど、気持ち悪い。起きているはずのその目には何も写してなくて、感情すらないように感じる。正直なところ、人形を見ている気分だ。妙な気分になりどう対処しようか考えてあぐねて首をかしげていたら、突如口が開かれた。    『………ゆずる』    『あ、うん。なに』    名前を呼ばれると心がずきりと痛む。大丈夫だ、普通に話せている。    『……おやすみ』    『うん、おやすみ………ってえ?!寝るの?自分の部屋に行ってよ!』    いきなりの寝ます発言に声を荒らげた。いくら普通の親子程度に会話を続けれるようになったと言っても、部屋にいられるのは心臓が持たない。というか破裂する。  そんなおれの叫びを諸共せず、父さんは夢の中へ戻って行った。    『う、うそぉ…』    ベッドから抜け出して俯いた父さんに近寄る。目を、閉じていた。本当に寝たらしい。ここで寝られると…おれ、寝れないんだけど?ぺちぺちと頬を叩いてみるが起きる気配は一向にない。  移動させることも考えたけど、父さんの体重とおれの体重、身長差を考えれば無理なことは一目瞭然だ。かと言って部屋で寝かせるのも…。    思案し続けた結果、父さんをおれのベッドに寝かせておれはリビングのソファーで寝ることにした。    よっこいしょと父さんの肩に自分の肩を入れ腕を組み、持ち上げ──。    も、持ち上げ─────。    あれ、持ち上げ──────っ。    持ち上がらない、重い。何これ筋肉量の違い?まるで自分が軟弱だと知らしめられた気がして腹が立つ。  荒くなった息を整えもう一度上げると、何とか上がった。そのまま引きずってベッドまで運び、ほぼ放り投げたも同然に腕を解く。乗っからなかった足をベッドにまた放る。うつ伏せになって息苦しそうけど…自己責任だし、これでいいやとベッドから離れようとした。  ぐいっと手が引かれベッドに引きずり込まれる。    『ぐぇっ』    カエルのような声が出たのは、父さんが強めにおれの体を抱き抱えたからだ。苦しい。狭いのが嫌だからと文句を言って買ってもらったダブルベッドでも、男二人が抱き合うのには息が詰まる。    『父さん、離して!』    『………………ふぅ』    近い近い近い!後ろから抱き締められ、耳元で吐息が聞こえる。苦しい、やばい心臓破裂する。なんで抱き締められてるの?記憶が戻った?    少しして気づいた。待って、これ寝てる。後ろが確認出来ないから確かめる術はないけど、寝息が…聞こえる。逃げ出そうにも強めに抱かれ身動きが取れない。父さんの体温がすぐ近くにあって、すっごく密着してて、耳に吐息が触れていて。あああ、寝れない! ドギマギするなか朝を迎え、父さんの第一声は    『…なんで譲がここにいるんだ?』    だった。自分が寝ておいて、さらにはおれをベッド引きずり込んでおいて、自分は悪くない、そう言いたげな顔。実際は覚えてい無いだけなんだろうけど怒りが頂点を突破して、気づいたら頭突きをかましていた。    『さいっっってい!』    そうして蹲る父さんを無視し、制服をさっさと着て出てきたところが今朝の出来事だ。  さすがに頭突きは酷かったかな?というのが反省点である。

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