石頭のおれですら未だにずきずきと痛むくらいなのだから、父さんはもっと痛い筈だ。あっちが主に悪いんだからやりすぎ、なんてことはないと思いたい。 　 　授業が始まる前の十分前休憩、ホームルーム後に呼び出された雪姫が不満そうに帰ってきた。 　 　「なんだったの？」 　 　「…今日の夜泊まりに行くから待っとけってさ。学校で言うなよ、あのクソが」 　 　毒づく雪姫を呼び出したのはうちのクラスの担任、城内(きうち) 理人(りひと)。この二人は所謂ケンカップルだ。どんなにその日一日喧嘩をして口を聞いてなくても、次の日になれば雪姫はキスマークを首につけて学校に来る。それを指摘すれば、大体手か足が飛んでくる。もちろん、雪姫からだ。 　 　「それより、お前んとこはどうなってんだよ？朔さん、全然ダメなわけ？」 　 　「…………朝頭突きして出てきた」 　 　「…なんか、よく分かんねぇけど。どんまい」 　 　肩を叩かれすごく惨めに感じた。雪姫には父さんの見舞いに通っていた時から連絡を取っていた。相談に乗ってくれる雪姫には感謝してもし切れない気持ちがある。 　その雪姫に昨夜のことと今朝のことを話せば、難しい顔をした。 　 　「まず、最初に言うわ。朔さんの両親怖ぇ」 　 　「やっぱりそう思う？」 　 　「思う。取引…いや、この際脅迫でいいや。その脅迫のこと決めてねぇのに無視して迎えに来るとか…オレだったら殴ってる」 　 　「やめて」 　 　さすがにやらねぇよ、と言いながら何故手を握りしめているのか。やりかねない雪姫を横目で流し机に突っ伏す。 　 　「で、昨日は朔さんに襲われかけたと」 　 　「誤変換にも程がある」 　 　「なのに朔さんは襲ったことを覚えていなくてお前は怒った、ってことでいい？」 　 　「襲われてないから！！」 　 　周りの視線が突き刺さり大声で否定して教室でする話じゃないなと後悔した。顔が赤くなり、雪姫がそれをいじって来て笑い合う。 　 　雪姫といると父さんの事を忘れることが憂鬱な気分から解放される。家に帰ればまた父さんに合わなければいけないとなると、すごく……逃げ出したくなる。少しの間父さんは仕事を休むことになっていて、ずっと家にいるらしい。つまり、休みの日になれば二人きりだ。 　 　「…雪姫」 　 　そうだ、あんな気まずい空間にいる必要はない。おれだって高校生だし、もう恋人じゃなくなったのだから泊まりに行ったところで咎められることなんて何も無いんだ。 　 　「なに、泊めてって言いたいの」 　 　「よく分かったな。泊めてください、お願いします、帰りたくない！！」 　 　「なーんか、前にもそれ聞いた気がするなぁ。あの時は朔さん迎えに来たけど…今回は来ないだろうなぁ？」 　 　遠回しに帰れと言われてるが、気にせず頼み込む。 　 　「父さん来ないんだったら良いじゃん！お願いだから！」 　 　「だめ」 　 　お願い、だめ、と攻防戦の末折れたのは雪姫だった。雪姫の手を取り上下に大きく振る。 　 　「ありがとう！まじありがとう！」 　 　「その代わり、朔さんに連絡取れよ？それしなかったら泊めないからな！」 　 　笑顔で頷くと、雪姫も顔を綻ばした。