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第4話
退屈な授業を終え放課後になり、ふと思う。今日城内先生、雪姫の家に行くんじゃなかったっけ?確かホームルーム後に呼び出されて雪姫が文句言ってた。
後ろの席を振り返る。始業式の時、おれと雪姫が逆の席に座っていることに先生は気付かず、今もそのままだ。おかけでキスマークを隠す絆創膏を貰えたわけだけど。
「雪姫、今日先生来るんじゃなかったっけ?」
雪姫は少し呆けて、忘れてたと呟いた。次に困ったような顔をする。
「理人、結構強引だからなぁ。譲は帰りたくないっていうし」
「申し訳ないです」
手を胸の前で合わせてごめんと言う。人の家に泊まるって迷惑かけるのだと初めて知った。恥ずかしながらこれまで友達が少なかったから、接し方が未だに謎な時もある。
「まぁ理人は後でどうにでもなるし、取り敢えず帰ろ」
雪姫は自分の鞄とついでにおれの分の鞄も持ち、歩き始める。なんだそのイケメン行動、顔は可愛いくせに男前だな。そんな気持ちを雪姫は知ってか知らずか、肩をくすめるだけだった。
玄関で靴を履き替えて、鞄を返してもらおうとしたらすっと上にあげられる。手を伸ばして取ろうとしたけど、取れなくて睨みつけた。
「返せ」
「取ってみれば?」
最悪なことに、雪姫とは身長差がある。雪姫が一七四センチに対しておれは…一六六センチ、ほぼ十センチ差。鞄を持ち上げられてしまえば身長はもちろんの事、手足の長さで負けてしまい鞄は取れない。なんでこんな意地悪するんだ。
「返せってば」
ぴょんぴょんと跳ねてみるけど、雪姫も取られないように応戦してくる。おれが跳ねると雪姫が退いて、もう一度跳ねると雪姫は鞄をさらに高いところに、再度跳ねたら雪姫は逃げて──。いい加減に疲れてきて、なんなんだよもう!と叫んだ。そしたら、
「いや?特に意味は無い」
と言って鞄を渡してくるから唖然とした。一体何がしたかったのか分からない。もしかしたらこれは雪姫なりの励まし方なのかも、と考えたがニヤニヤしておれで遊んでいた事を思い浮かべそんな訳ないと結論づけた。
やっと返してもらった鞄を手に、今度こそ玄関を出て校門に向かってる途中で気づいた。足の長い、さながらモデルのような男の人が立っている。
「なぁ譲、あれ朔さんじゃね?多分なんだけどさ」
頷く。多分じゃなくて、確実に父さんだ。こんな所までやってきて、何の用かは聞かなくても手に取るよに分かる。どうせ泊まりの件だ。くるりと踵 を返し歩きだす。
「話さなくていいのか?」
「いい。裏門から帰ろ」
ムカムカして、半ば競歩で裏門に到着したら…父さんがいる。
「………………」
足が速い。きっと足が長いから余計に速いんだろう。不機嫌そうな顔からは今にも文句が飛び出しそうだ。暫く睨み合いが続く。
「お久しぶりです」
すると、場を和まそうとしたのか雪姫が父さんに声をかけた。父さんは一瞬思い出すような素振りを見せたものの、それが出来ずにため息をついた。
「ごめんね、思い出せないんだ」
「大丈夫です。譲から話は聞いています。俺、譲の友達で小野山 雪姫って言います」
「どこかで話したことあるのかな?」
「前に譲が家出した時にお話した程度だったのです」
「…家出、か」
今更遅いけど、雪姫に肘鉄砲を食らわせ黙らせる。父さんが非難めいた目を向けてきた。
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