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第6話
※飲酒は二十歳になってから。また、未成年に酒を促すものではありません。
泣きたいのは父さんのはずなのにおれが泣いてる。それでもなお、もう二度と笑いかけてくれないかもと思うと、溢れ出るこれは止められない。
「ぉ、おれ…っ、きらわれっ、たっ」
「ちょっ、泣くなよ男だろ!」
「女の子になりたかったぁぁっ」
「ご、誤解ですよ皆さん!気にしないで!」
裏門から帰ろうとする数人の生徒がおれを見てぎょっとしている。
女になれば、父さんを好きでいることにまだ自身が出来たのに、なんでおれは男として生まれてきたのだろう。
「うぇっ…ひぐ…ゆきぃぃ…っ、わぁぁっ」
「だぁぁぁぁ!泣き叫ぶな、人が見てるから!あーあー、帰ろうねー譲くん!」
手を繋がれ大きく前後に振られる。仲良しこよしのその恥しい格好にすら笑えなかった。
***
雪姫の家に着くとリビングに通された。だけど、おれはまだ泣き止んでいなかった。帰り道で必死になって笑かそうとしてくれた雪姫は申し訳ない。
「…ひっ…く」
「お前、そのうち干からびるんじゃね?」
ことん、とテーブルの上にジュースが置かれた。いや…これジュースじゃない。
酒が目の前に置かれた反動で涙が止まった。びっくりして止まっただけで、酒を見て喜んだから止まったわけじゃない断じて違う。なのに雪姫はにやっとした。
「今日は飲もうぜ」
「だめだろ…ぐす」
「いいんだよ、どうせオレらだけなんだから!」
にやにやしながら雪姫が酒のプルを引き、シュワッと中から泡が飛び出す。多分、ビール。涙を手で適当に拭いて、譲はこれなと渡された物を手に取った。オレンジカクテルと書かれた甘そうなもので、アルコール度数は三パーセント。
「なんでおれ、甘そうなやつなの?」
「不満?譲くんにはそれが丁度いいんです。苦いの飲んで吐かれるのは勿体なくて出来ませんから。それとも、苦いものが好きなドMですか〜?」
ふざけた口調で言われムッとした。自分だってビール飲んでるんだからドMになるだろ。全国のビール飲んでる人に謝れ。
前に置かれた酒のプルを引いて、飲んでやると意気込む。甘いのだって別に大丈夫だし。
「飲む」
「はいはい、じゃカンパーイ」
こん、と缶と缶を合わせて音を立てる。雪姫がぐっと酒を煽るのを真似して自分も缶を傾けて喉に流し込む。すると喉と腹の中が一気に熱くなって─涙が零れた。
「まさかお前、泣き上戸…とか?」
不穏な空気を読み取って、雪姫が訝しげに聞いてくる。
頭が回らなくて、ぼんやりしてくる。泣き上戸ってなんだろう。その間もずっと涙が流れ続けて床に落ちていく。
「…っ、父さん…の、ばかっ、ぼけっ」
「泣き上戸確定…まぁいいや。今日は思う存分喚け」
雪姫にそう言われて愚痴を吐きに吐いた。声が裏返っても嗄れてもとにかく話し続けた。 父さんが今までしてくれたことを忘れた恨み辛みを延々と、それも口汚く─。
「雪姫、お邪魔し──何やってんだ」
流石に喉が痛くなって喋るのをやめた頃、城内先生が部屋に入ってきた。あ、そう言えばおれと雪姫酒飲んでるんだけど…やばいのかな。
「酒くっさ…え、雪姫、お前何してんの、官乃木に酒飲ませて襲う気なのか?」
「馬鹿じゃねぇの?!オレもこいつもネコだっての!」
ネコ?あのにゃあって鳴く猫のと事だろか、と鳴き真似をしてみると手に持っていた缶を先生が取り上げた。腕を伸ばすも躱される。
「出来上がってる、飲ませすぎだ」
城内先生が部屋の惨状を見て唸った。カクテルの缶が二本、ビールの大きい缶が二本、ツマミの袋はあちこちに放ってある。
「俺、仮にも教師なんだけど?未成年が酒飲んでるのを見逃すと思ってるのか?」
「教師に犯されてまーすって、言いふらしても良いなら告発どうぞ?」
「お前なぁ…」
ため息をついた先生をちらりと見る。よく見るとイケメンだ。全体的に細身で身のこなしが軽い。顔は目鼻立ちがハッキリしててもしかしたら外国人の血が混ざってるのかもしれない。
「それで、官乃木は何でそんなやさぐれてるんだ?」
「恋人が記憶喪失になったんだってさ」
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