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第8話
雪姫が起きて、おれが送った写真を確認した途端案の定悪態をつかれた。馬鹿だの阿呆だの盗撮魔だの罵倒されてもそれが照れ隠しだと思うと可愛く感じて笑う。笑ったらまた罵られた。
「官乃木、写真俺にも送ってくれ。待ち受け画面にする」
頷き連絡先を交換していると雪姫が叫び、やめさせようと胡座をかいていた先生の足の脛を雪姫が蹴り飛ばした。痛みに蹲る先生に同情の目を向ける。脛を的確に蹴るなんて恐ろしい。
時間は六時半、今日学校は休みだからもっとゆっくり寝てても良かったなと思う。
「あ、先生送れました」
「ああ、ありがとう」
送信できたことを先生に告げると、蹲っていた体勢からすぐに起き上がり携帯を操作し始めた。それを見て雪姫がまたぎゃいぎゃいと騒ぎ出す。
「あぁ、もういい!理人、飯作れ!」
写真を諦めた雪姫が財布を投げつける。当たることを期待したらしいが、見事に空中でキャッチされて舌打ちをした。
二人の仲がいい事を羨むと、自分を卑下してしまいそうなる。何だかんだ言いつつも素直な雪姫、その雪姫を愛してやまない城内先生。おれは素直じゃないし父さんは…言わずとしれたこと。
どれもこれも違うところが多すぎて悲惨だ。
段々気持ちが暗くなり悲観するのをやめたくて、先生に買い物付き合いますと立ち上がる。気分転換に丁度いいと思っていたが断られた。まだ二日酔い真っ最中だろと指摘され見抜かれていたかと苦笑する。
先生の言う通り、まだ頭が痛いしクラクラしている。手伝えなくてすみませんと頭を下げる。
「いいから、すぐそこのスーパーだし。寧ろ普通は財布を投げつけた本人が行くべきなんだろうけどな…」
ちらりと雪姫を見ると欠伸をしていて、おれ達の視線に気づくとなんだよ?と不機嫌そうな声を出した。言いたいことはあるが、なんでもないと首を振る。
先生が買い物に行くと、雪姫にいきなり枕を投げられた。
「泊めてやった恩を忘れたとは言わせないぞ、写真消せ」
どうも、写真のことは諦めていなかったみたいだ。
「やだって、言ったら?」
「今すぐ家出ろ。鍵閉めてやる」
消します、消します!と謝り倒し目の前で写真を消した。…既に他のメモリに移してあることは絶対喋らないでおこう。と思っていた矢先、雪姫はおれから携帯を奪いフォルダをチェックしだしてしまった。これはバレるのも時間の問題だ…本当に追い出されるかも、と冷や汗をかき動向を見守っていた。
少しして雪姫が携帯を見せてきた。
「譲、電話きてる」
雪姫に言われて初めて気づいた。数件のメールと電話。電話は雪姫と父さんの二人、あとは誰もいれていなくて、メールは城内先生を登録したから三人。
その登録数の少なさを見たのか、雪姫がすごい哀れそうな目でこっちを見てくるが無視してやった。
携帯を受け取って不在着信を確認すると、四件全てが父さん。当たり前だ、すぐそばにいた雪姫が電話する理由はない。メールは三件で、うち一件が父さん、二件が先生だった。
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