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第9話
二人で画面をのぞき込む。先生からのメールの内容はご飯何が良いかというもの。特に食べたいものもなく、うどんに決まった。ちなみに、料理の腕前は雪姫の方が格段に上なんだとか。じゃあ自分で作れば良いだろうに、雪姫は面倒臭いの一言で片付けてしまった。
うどんでお願いしますと返信し終えテーブルの上に置くと雪姫が他のメール確認しねえの?と聞いてきた。
「しない。どうせ禄でもないことだろ」
「決めつけるのはどうかと思うぞ?朔さんなりに心配してるかもしれない」
そうかもしれないけど…と口篭る。あれだけ「好きにすればいい」と啖呵を切っておいて電話やメールをしてくるなんて、考えられない。現にしてきてるけど…どうせ、その友達に迷惑をかけるなとかその辺りだろう。もしかすると、もう帰ってこなくていいと言う通知かもしれない。
「おーい戻ってこーい。どんどん、どんどんお顔が暗くなってきてるぞー」
「…ん?」
俯きかけた頭を上げる。おれの顔をのぞき込んでいた雪姫とバッチリ目が合った。
「何考えてた?」
「…べつに」
「目が泳いでる」
ツッコまれ、目を左側に寄せる。すると雪姫が左に移動してきた。無理にでも聞き出したいらしい。
大人しく考えていたことを白状した。長すぎるため息のあと、置いていた携帯を押収された。何をしているのだろうと見ると電話をかけていた。
「ちょっ、待ってやめろ!」
それもかけていた相手が悪い。
「はい、頑張ってね譲ちゃん。自分で真実を導き出すんだ!」
切ろうとしたのに既に電話は繋がっていて、もしもしと相手側の音声が漏れており、無言電話は気が悪いだろうと渋々受け取る。
「もしもし…電話、何だったの」
『友達に迷惑かけるなって言おうとしてな』
ほらな、おれ自身の心配なんてしてないんだよ。
「それだけ?もう切っていいよな」
『ああ』
あっさりした会話にもう驚きすらなく、中学生の時に戻ったみたいだとさえ思う。切ろうとする前に、待ってと声を掛けた。
「最後の確認。おれ、好きにしていいんだよね?」
『……そう、だな。変なことはしないようにしなさい』
少し間が合ったのはなんだったのだろうと考えつつ電話を切った。興味津々な雪姫にどうでもいい事だったと話すと、興を削がれたといったようにそっぽを向く。
ちょっとすると、腹が減ってきたのか先生が遅い、うどんはまだかと文句を言い始めた。
「うどん早く帰ってこないかなー」
「うどんは帰ってこないから…。おれ、ちょっと見てくる」
咎める事もなく寝転がったまま雪姫に見送られる。雪姫が行くべきだろ、と言う言葉は完全に無視された。
雪姫のアパートは二階。今にも壊れそうに錆び付いた階段を降りていく。その途中思い返すのはさっきの冷たい電話の会話。
とうとう見放されたのだろう。でも、父さんもおれという荷を肩から降ろせただけで楽だと思うし、上手く行けば新しい恋を見つけておれの事なんて忘れてくれるかもしれない。
あわよくばおれも、好きな人出来たりして、なんて考えてそれは無いなと首を振る。今でさえ冷たくあしらわれて心が痛くて、なのに声が聞けて嬉しいとか思っているからだ。
突発的に思い浮かべては、現実に打ちのめされる。それでも好きでいられるのは、短い間だが付き合ってきた思い出が残っているからだ。これさえあれば、生きていける気がしている。
スーパーの方面に足を運んでいると、おれと同じ速度で走る車が横についていた。人の足の速度なんてたかが知れてるのに、わざわざ追い越さないのはおれに用があるからだろう。
黒塗りのリムジンは、横断歩道を渡ろうとしていたおれの行く手を阻んだ。わざと気付かないふりをしていたのに無意味だった。
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