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第11話
「電話しなさい、荷物も今から取りに行くと」
青い顔をしたおれを無視して話は進む。
さっきの所で降ろして欲しいと言ったら、余程弱々しい声だったのだろう祖母が心配そうな表情を見せた。それも刹那の事で、車はすぐに横断歩道の所で再び停る。
「お友達にも、ちゃんとお別れするのよ」
後ろで祖母がいってらっしゃいと言った切り、その場は静かになった。
お別れしなきゃ、と来た道を見据える。何故か霞んで見えた。
車内でもう一つ脅された。それは雪姫のことだ。おれの周りはほとんど把握されてるらしく、先生と生徒が付き合うのは…どうなのかしら?と言われて、息が出来なくなった。
あの二人の関係がバレたら、もう二度と幸せなそうな姿が見らないんだ。
父さんの会社は?父さんは仕事が生きがいだと、前に楽しそうに話してくれた。その笑顔も見られなくなる。
胸に抱えられるまま、小さな声を張り上げて言わないで言わないでと何度も乞う。榊田に来てくれるならと条件をつけて車から降ろされたのだった。
雪姫は鋭いからバレてしまうかもしれない。シャキッとしなければと思えば思うほど、体は自由に動かせなくなっていく。
覚束無い足取りで雪姫のアパートに戻った。
「譲、理人いた?」
雪姫のいるリビングに入り、携帯を手にした。
「いなかった、すれ違ったかも」
ふうん、と雪姫はさも興味なさげに言う。
我ながら馬鹿だ。もう一回行ってくるって出て、そのままここには帰ってこない作戦である。─さよならが口に出来ないなんて脆弱だ。鞄も持つと、雪姫に名前を呼ばれた。振り返ると雪姫がにこにこ笑ってた。それはまるで、新しい玩具を見つけた子供のよう。
隣をぽんぽんと叩き座ることをせがまれ、こうして話すのは最後かもしれないしいいかと素直に座った。首を傾げても雪姫は笑顔を終始絶やすことなくじっとおれを見ていて、だんだん怖くなってくる。
「どこいくのかな、譲ちゃんは」
ふざけた口調のなかに怒気が混ざってることに、気づけなかった。
「ちゃんやめろって。別に、先生探してくるだけだけど?」
「へぇー。オレには言えないんだァ?信用されてないねぇ」
何が言いたいんだよと苛立ち紛れに返す。雪姫は突如笑顔をなくし、睨んできた。
「とぼけんな。さっき理人が電話かけてきてんだよ、『官乃木が黒塗りの車に乗って行った』って」
「っ!」
ひゅっと喉が鳴り汗が吹き出る。誤魔化さなければと頭は理解しているが、誤魔化せそうにない雪姫の視線が突き刺さる。
口を開けては、閉じてを幾度となく繰り返す。
「今言えない?」
とうとう口を閉ざしてしまったおれに、雪姫は優しく語りかけた。
「………」
「無言は肯定とみなす」
「あ、」
「いい、いい。大丈夫無理に話さなくて。オレ朔さんと違ってキレたりしないから」
いやどっちかと言うと雪姫の方が短期だろという言葉は飲み込んだ。
「ちゃんと自分で解決できること?」
「…分からない」
「まぁ、いつでも頼ってきなさい!あたたかーく歓迎してさしあげよう!」
背中をバシバシと叩かれる。痛い、けれど今はこの痛みでさえ心の支えになっていた。ごめん、全部終わったらきちんと話すから。
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