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第14話
覆っている手を外されそうになると見るな、と力を込めて小さく拒否をし、どうすればここから逃れられるか考えた。
「だめ、退かない」とか何とか言われたら強行突破でいこう、肩を押すか何かして。まぁ、力技で勝てるなんて思ってない。これは最終手段ということで。
「父さん、頭痛くない?」
いい加減腕が疲れてきたが、万が一のために外さないでおく。
大丈夫だ、と父さんは答えるが気が気でない。記憶が戻り出した場合、取り乱すこともあるからと医者から精神安定剤を貰ってきているが、それが今手元にない。何時不安定になるか分からない状況、父さんにも説明して薬だけでも飲んでほしいところだ。
「こんな簡単に戻るんなら、スグにでも色々思い出せそうだな」
おれの気も知らないで、父さんは嬉しそうに目を覆われながら笑う。果たしてそれは笑ってると言えるのか…。
結局、いとも簡単に覆いは外され、またもや顔を朱に染めることになる。じっとこっちを見てくるからだ。
とにかく、服を着たいと言えば素直に退いてくれて──、ずしりと肩に重荷がのしかかった。
「あ、れ…父さん?」
耳元で微かに聞こえる寝息に、 寝た?嘘だろ、と困惑する。おれの力では支えれず父さんは床に倒れてしまう。よく見ると目元にクマができていて、疲弊した表情をしていた。
眠れて、なかったんだろうか。
「ってか、服!」
風呂場はシャワーを浴びていたせいで床は濡れており、そこに横たわる父さんはももれなく濡れてしまっている。このままでは風邪をひいてしまう、と急いで体を拭き服を着て体を持ち上げ──。
っ、持ち上げ─────。
んんっ、持ち上げ──────っ。
前にも、こんな事があった。そう、父さんがいつの間にか部屋にいた時も、こうして無理矢理椅子から引きずり下ろしたんだった。
今回もすんなり運ぶことが出来ず、荒い息をしながらなんとか風呂場から脱出、リビングの椅子にどかっと座らせた。後で打ち身になりそうな音を立てたのは、気にしない。
軽く頬を叩き、抓り、引っ張ったり、声をかけたりとしてみる。が、起きる気配はない。心配させてしまっていたのか、それとも今日みたいに不安定になって眠れなかったのか。
考えていくと、葛藤が生まれる。いくら会社の事や雪姫の為だと言っても、本当にこんな状態の父さんを置いていっても大丈夫なのか。今でこそ、落ち着いているもののおれが居ない間に倒れでもしたら…誰が助けてくれるのだろう。
脳裏を掠めた名前に、ああ、そうだなと納得する。この人なら、父さんを任せても大丈夫だ。まさか記憶のない父さんに手を出すほど変な人では無いはず。
榊田から逃げるという判断は、選択しなかった。
もし、戻ってこられるなら父さんの元へ帰りたいと思う。だから今だけ、父さんがおれの事を少し思い出してくれた今だけは甘えても、いいよな?と表情 を歪ませ、不謹慎だと思いつつ父さんの体にそっと体を寄せて。
目の開いた父さんと、視線が絡んだ。
そう言えば、前に父さんを運んだ時もこんな表情をされた。「なにしてるんだ?」的な。
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