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第2話

「なんで顔、隠してるんだ」 気恥ずかしくて、隠してるんだけど言ったら多分今更って言われるから無視する。 大泣きした後、父さんと向かい合わせに体制を変えられ、恥ずかしさで顔を手で覆っている。 「譲は、これからどうしたいんだ」 指の間から父さんを覗き見た。 「どうしたいんだって、どういう...?」 「榊田に行きたいのか?」 行きたくない、と手を下ろして言う。父さんのことも気がかりだし、なにより祖父が怖い。祖母に関しては大事な息子と言いながら、頬を叩いてきたのだ。どんな仕打ちをされるか分からない。 「でも、どうしよう...。父さんの会社の事も...」 「気にするな」 「無理、気にする。父さん、前に仕事が生きがいだって言ってたのに、おれのせいで、仕事が、出来なくなったら、...っ」 ゆるゆるな涙腺が決壊しかけると、父さんが焦り出した。 「泣くなこらっ、ああっ、いつからこんな泣き虫になったんだ譲は!」 「父さんの、せい、だから!」 「それに、言いつけも守らないしな」 言いつけ?と首を傾げる。思い当たる節はない、はず。 「父さんって、呼ぶな」 飛び出してきた低い声に、出かけていた涙は引っ込み、代わりに目を見開いて何で呼んじゃいけないんだっけととんちんかんなことを考えてしまった。 「朔、だろ」 「あ、...そんな、簡単に呼べない」 「どうしてだ?父さん...いや、俺のこと朔って呼んでただろ?」 俺って言い直したところに不覚にもキュンとして重症。きっと、未来永劫治らない。 「呼んで、ましたっけ」 呼んでましたよと笑いながら、でも有無を言わさない顔で肩を小突かれ冷や汗を流す。呼ばなき許してくれないだろう。 「...こ、う」 「聞こえない、もう一回」 「朔!」 ヤケクソでいえば不満ながらも満足したのか頬を撫でられた。本当に、この人は記憶がないんだろうか。意地悪なところは前と全く変わっていなくて、時々疑問に思ってしまう。 「おれ、榊田に行くから」 断言すれば、父さん、もとい、朔は嫌そうな顔をした。 「行きたくないんだろ?」 「行きたくない!怖いし、ほっぺ叩かれたし!」 「叩かれた...?」 墓穴掘った、叩かれた事を知られれば余計に行かせてもらえない。 「それは置いといて」 「置いておくな」 「とにかく、行きたくなくても反対されても行くから!」 行きたくないのは本当だ。だが、そうは言ってられないのが現実でもある。行かなければ朔は仕事を失うし雪姫たちは引き離される。自分の身一つで周りを助けれるなら、おれはそっちの方がいい。 「許さないって言っても?」 「どうせ、迎えに来るだろうから勝手に行くけど?」 暫しの沈黙、次に咆哮、そして、抱擁。 「くそっ、嫌なこと言われたら帰ってきていいからな!殴られたらなぐり返してもい!嫁に出したくない...っ」 おれは今から、嫌な姑の家に行くのだろうか。

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