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第4話

着信音が鳴って、携帯に飛びついた。榊田に来てから既に数日、初めてではない電話だが嬉しいことに代わりない。 榊田に来たら何かやらされるのかとビクビクしていたが、特に小言を言われることも跡継ぎとして変なパーティを開かれることもなかった。ただ酷く、もてなされた、それだけ。「それだけ」といっても、その程度で済むはずもなく。 来たその日の晩のご飯は、料亭で出されるような料理が振る舞われた。美味しいのだがどこかものなり無かったのは、朔がいないせいと、あまりにも静かだったせいだ。 何十人と入りそうな部屋に三人だけは寂しかった。 そうして、何事もなく数日間を過ごし、唯一の楽しみと言えば、十一時前後にかかってる朔からの電話。祖父母はどちらとも早寝早起きを決め込んでいるらしく、十時半には床についている。それを伝えれば、電話をかけてきてくれるようになった。 「もしもし!」 気持ち小さめの声を出せば笑いが返ってきた。 『そんなに焦らなくても切らないから安心しろ』 「でも、嬉しくて...」 どうやら急いで出たのがバレていたらしい。はにかんで言えば今日は何かあったかと聞かれる。 「ううん、何もなかった。というより誰もいなかった。家政夫さんはいるんだけど、二人とも家に居なかった」 『そうか...、もう少し行動に移すと思っていたんだが』 「それが、何もないんだよなぁ。あ、そうそう、今日も着物だった」 ここに来て以来、洋服を着ていない。その代わり、毎日着物を着せられている。 今日のは亀甲柄の長襦袢、露芝模様の着物に黒の七宝柄の帯だ。 『保存するから、写真を送りなさい』 「い、や、だ」 最初に着物の話をした時も、こんなことを言っていた。夏祭りなどもあまり行かなかったおれは、もちろん着物や浴衣を着る機会が極端に少なく、着物姿のおれの写真を送りなさいといつも朔は言ってくるのだ。 「本当に...何もないんだよ。逆に怖い」 『何かあったら言うんだぞ』 また、これ。耳にタコが出来るほどきかされた。 だらだらとお喋りしていたらあっという間に時間は過ぎていった。 『そろそろ、寝る時間だ』 「いいよ、どうせ明日もどこにも出かけれない」 祖父に家から出る事を禁じられて以来、毎日食べては寝て、食べては寝ての繰り返し、軽い軟禁生活である。さらには、与えられた自室にはテレビやインターネット類は一切置かれておらず、退屈なのだ。 『じゃあ、もうちょっとだけだからな』 「うん!」 電話越しなのに大きく頷き口を開いた時、部屋の戸が動いた。 「譲、何をしているのかしら?こんな夜遅くに」 ゆったりと微笑んだ祖母には、狂気が見られなくて、朔だと分かってないのが伺えた。 「ごめんなさい、友達が電話をかけてきていて...」 「あらそう...でも、ちゃんとお別れしなさいと言ったはずよね?」 「事情を説明出来ていない友達で...」 「あらあら、その子には悪いことしたわねぇ。もう譲には会えないのに」 ひゅっと一瞬喉が鳴り、落ち着かせるために深呼吸をする。 やっぱり、ここから出すつもりも「家」に帰すつもりもないんだ。 「そう、ですね...おわかれ、します」 「賢いわァ、譲は。そうそう、明日は学校に行くから早く寝なさいね」 「が、学校?!」 口をあんぐりと開く。学校に通わせてもらえるなんて思ってもみなかった。これなら雪姫と情報交換もできる、と喜んでいたのもつかの間。渡されたパンフレットにはあの有名な金持ち高校の名前が記されていた。 「私立桜花高等学校...?」 「榊田の人間は全員その高等学校を出るのよ。大丈夫、友達は私たちが決めてあげる( ・ ・ ・ ・ ・ ・ )わ。今後の事を含めて、何不十分ない友達をね」

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