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第5話

いつの間にか切れていた電話にため息をついてその日は寝た。 次の日、嫌々ながらも制服を着せられ屋敷から出かけさせられた。またベンツ。ふかふかのシートは体が沈みすぎて、まるでベッドで眠っている気分になる。 「しゃきっとしないか、だらしない」 凭れていただけで祖父に怒られる。確かにウトウトしていたのはダメだと思うけどそこまで言うことないじゃないかと反抗的な態度が出そうになった。 学校についてきたのは、祖父だけ。祖母は用事があるとかなんとかで来なかった。どちらにしても、依然として居づらいに代わりない。 意識を保ったまま学校に着くとすぐ質の良さ気なスーツを纏った教員に中へ通された。大きな門(玄関)を潜ると、なんとエレベーターを使って三階へ移動。そのエレベーターですら高級感のある一式だった。 三階の廊下のつきあたりを右に曲がると程なくしてえらく金がかかってそうな扉が現れた。 「失礼させていただきます。桜花理事長、榊田様をお連れいたしました」 中から入りなさいと声が聞こえ教員が扉を開けた。居たのは、白髪の混じった初老の男性だった。 「やぁ!久しぶりじゃないか、茂雄!」 「相も変わらず声のでかいやつだな、お前は」 知り合いらしい祖父と理事長は仲良さげに抱擁を交わしている。祖父の人間らしい所が垣間見えた。 「養子を迎えたと聞いて驚いたよ!朔くんの息子だって?可哀想に、両親が不慮の事故で無くなるなんてな...」 朔は完璧に亡くなったことになっているらしい。 「アレだって、息子を一人残して逝くのは辛かっただろう」 いやいや、ちょっと前に話したでしょ。 「最後に儂らに、「親不孝で悪かったと思っていた。自分勝手だが譲を頼みたい」と言っておってな...」 「なんと...朔くんも、親孝行出来てないと感じていたのか」 「らしいな」 話がどんどん進んで止まるところを知らない。朔が何で家を出たかは聞いてないけどこれだけ陰険に扱われていれば、どれがけ朔が嫌な想いを重ね持っていたのかよく分かる。 「譲、今日は学校を見学するだけだ。時間が来れば迎えに来る」 「はい...お願いします」 屋敷にいる時から、忙しいから送り迎えだけをすると言われていたから驚かなかった。 祖父が出ていき、それに伴って教員も出ていくと理事長室はすっかり静けさを取り戻した。 「おれ...えと、初めまして、官乃木...?榊田...、譲と言います」 取り敢えず頭を下げると、畏まらなくてもいいと言われる。続けざまに朔くんは元気かな?と問われ失礼ながらえ?!と大声を出してしまった。 「茂雄の事だ、朔くんは居ないものとして扱い君を無理矢理連れてきたんだろう?何か脅されたかい?」 すごく的確な推測に何も言えなくなった。

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