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第8話

「なぁ、携帯持ってるよな?」 尻を触っていた手は背筋をつぅとなぞってくる。 「ひっ...も、持ってますけど何ですか!」 「貸して?そしたらやめてやる」 「貸します、貸しますから離して!」 手の動きが大胆になってきて、血の気が引く。何する気だ? 「えっと、胸ポケット?それともジャケット?それとも尻ポケッー」 「自分で取り出せます!」 どんと突き飛ばしズボンのポケットから携帯を取り出す。先生ははーいありがとうとさも思ってもなさそうに言い受け取った。 こんなセクハラ行為教師が担任?本当にここ大丈夫なのか? 「あったあった」 画面をスクロールし嬉しそうにそれをタップする。少しするとコール音が鳴り響きどこかへ電話している事が分かった。 「だ、誰に電話して...」 「ん?ちょっとな。あ!そうそう、おれと朔は同級生だから」 「え?!」 ってことはここの卒業生?振り返って理事長を見るとまだニコニコ笑っていた。そうやって笑っている暇があったら、さっき助けて欲しかった。 恨めしい視線を送った時、コール音がぷつと途切れ朔の声が聞こえてきた。スピーカーになってる。 『譲、こんな時間にどうしたんだ』 何でこの人が電話したのか分からず説明の仕様がない。 周りの目を気にして父さんと呼ぶと苛立った声音が返ってきて冷や汗が流れた。 『だから、父さんって呼ぶなって』 「とととと、父さん!この話はまた後で!ね?!」 それ今言っちゃダメなやつ!名前呼びとか不審がられるから! 携帯を先生からひったくり切ろうとしたら後から抱かれ、首越しに顔を出された。 「あれぇ、朔くん。息子に名前呼び強請ってるのぉ?可笑しいねぇ?」 会話に無理矢理入り込んできた先生。突っ込む所が急所すぎて固まってしまった。 朔は考えているかのように黙り込み、どちら様ですかと淡々と答えた。 「おいこら、昔のオトモダチ忘れてんじゃねぇ」 『忘れるわけないだろ、蓮。お前今までどこにいた。何年連絡よこしてないと思ってんだ』 ちらりと先生を見るとすごく嫌そうな顔をしていた。 「あーあーまぁた始まった。説教はもう聞き飽きたっての」 『聞き飽きた...だと?ここ何年聞いてないくせに。今までどこに--』 長々と説教を始めた朔を止めるために声を荒らげた。 「父さん!この人、おれのクラスの担任!」 「お、譲くん賢い。この説教魔止めてくれるんだ」 『はぁ?待て譲、今学校にいるのか!昨日話してた、桜花高等学校か?』 仕方なく連れてこられた経緯を話すとため息が重苦しく残る。おれ悪くないのに...その態度何だよ。顔を顰めると先生がおれの首筋にツツッと下から上へ撫で上げた。 「あれ、本意じゃないんだ?でも萌えるなぁ...無理矢理転校させられて、見知らぬ環境でひとりぼっち。そこに現れるイケメン教師、譲くんはその先生にだけ心を開き始めそして-」 『蓮、譲に手を出したらいくらお前でもゆるさない。下についてるもん二度と拝めないと思え』 先生の妄想をドスの効いた声で朔がやめさせた。殺気立ってるそれに、どうか火山が噴火しませんようにと願う。 「朔、お前今どういう状況?記憶飛んだってまじ?」 いつおれ、先生に教えっけ?と思い返すが出てこない。盗み聞きされていたとすれば、バツが悪い。怯えた所も聞かれていたというのか。 朔も先生が話をしている間も、先生は体をおれに預けてきていてだんだんと重くしてくる。途中で耐えられなくなりふらつく。流石に、どいて欲しいなと思い、退いて下さいと言った。 「重い?どーしよっかなぁ」 譲に何してんだ、お前、と一段と低くなる声。 「譲くんって、可愛いよなぁ...ほれ」 「ひっ、どこ触って?!」 『蓮!』 「と、父さん落ち着いて?!...やだ、ちょっ」 「へえ、耳弱いんだ」 「っ、...ぁ」 『...殺す』 機器から流れてきた殺気を察し先生がやっと離れてくれたのだった。

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