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第9話

先生と朔の会話と説明を要約すると。 先生は扉越しにおれと理事長の話を盗み聞きしていて、気になって朔に電話をかけた。 朔と先生は高校の時の同級生で、桜花理事長の生徒だった。 おれの母親も同じく朔たちと同級生。 母さんはその時に朔と出会い、結婚。 結婚して少し経つと、蓮との連絡が取れなくなり、音信不通状態に。 ...そうして現在、数年振りに会う友人は地元の学校の教師になっていました、と。 音信不通の理由は、世界を見てくると言って日本を飛び出したから。 教師になった理由は桜花理事長に怒られたから。 朔に連絡しなかった理由は、怒られるのが嫌だったから。 不甲斐ない理由の数々にジト目で先生を見る。悪びれもなく話すところを察するに、連絡しなくて怒られるという判断には至らなかったみたいだ。 確執が取れ、普通に談話し始めている二人。 ここでモヤモヤするのは場違いだと分かっているけど、どうしたものか。 朔の記憶だって曖昧なものだし、好きの具合も違うのだろう。おれが、どの辺で嫉妬するかも忘れ、て......違うぞ、これは嫉妬なんかじゃないからな。モヤモヤするけど、何も思ってないからな! じゃあ何だと言われると...うう答えられない。 自問自答をしてたら先生に呼ばれて我に返った。 「朔が変われってさ」 居ることを忘れられてなくて安心した。スピーカーをやめ、耳に携帯を当てる。 「どうしたの?」 『あれから百合子さんとの連絡が取れなくなったんだ』 「電話した?」 『電話もメールもしたが...一切でなくなった。昨日もかけてみたが、とうとう電話番号を変えたみたいだ』 どうしたと言うのだろう。百合子さんなら朔の電話なら喜んで出そうなものなのに、電話番号すら変えてしまうだなんて。 課長さんの娘と言ってたからその人に連絡を取るのもいいけど、朔がこんな状態だから難しいところだ。 『倒れたりはしないから、連絡する必要はないけど気になってな』 「分かんないじゃん、倒れる倒れないなんて」 こっちとしても一人残していくのがどれだけ心苦しいことだと思っているんだ。 『それは、まぁそうだが』 「...早く、元気になって」 元通りになって元気になって欲しいのと、ならなくていいから元気になって欲しい気持ちが交差する。 「記憶はどう?大丈夫?」 『特に、進展はないな。...ごめん』 「ゆっくりでいいから」 『.........』 .........え、気まず。何だろうこれ、重いし異様に気まずい。 急に押し黙られると会話ベタだからおれも黙ってしまう。 「じゃ!じゃあ切るから」 言い、ボタンを押そうとしたけど朔に止められた。 『言おうか言わまいか迷ったが...蓮に近付くな。あいつは根っからの可愛いもの好きで何にでもすぐ手を出す節操なしだ』 「節操...?」 『ヤリチンってことだ』 やり、ヤリチン?!ヤリチンってあれだよな、めっちゃあれやこれややってるってことだよな。え、え?この学校って名門校なんだよな、そこから出たヤリチ、いやいや、先生って何者ですか。 「譲くーん、頭から湯気出てるよー?」 今話しかけないでほしい。おれの脳みそが混乱しているのは先生が原因だから! 『とにかく、近寄るなよ!というより、だ。何かされたら言え』 既にされてましたが、それはノーカンですか、とは聞けなかった。 電話を切って携帯をしまい、先生を見ることなく理事長の方へ向く。 「今日はありがとうございました。祖父が迎えに来たようです」 朔の電話を切ったあと、次いで祖父から連絡が来た。校門のところで待っていると。 「そうか、ではまた明日だね」 「はい。よろしくお願いします」 頭を下げ教室を出る理事長に続く。走ってきた先生を一瞥し先を急いだ。 「譲くん!先生への挨拶は?!」 「ちょっと?!」 「父さんに近寄るなと言われたので、さよなら先生!」 「あいつ何吹き込みやがったんだ!!」 待ってぇえと情けない声が廊下に暫く響いていた。

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