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父さん、食べないで 1
インターフォンが鳴り、朔が出る。おれはソファーの上ではだけさせられた服を直していた。
今日、バレンタインだって気づいて雪姫と一緒にチョコ買いに行った。大きめのデパートに、男二人でチョコ売り場に来て唖然とする。まさに、チョコの争奪戦。女の人が山積みにされた箱を巡ってバトルしてた。その中に入る勇気は、残念ながらどっちも持ってなくてどうしよう、と顔を見合わせた。
「帰るか」
「ここまで来てかよ」
「...」
そう、ここまで電車を乗り継いで三十分もかかっている。わざわざそうしてきたのは、ここがチョコを大量に安く売ってる店だからだ。それも、値段の張るブランド物を。
「じゃあ買う?」
「無理、だろ」
「じゃんけん」
「無茶言うなって。譲が負けたら、どうするんだよ」
雪姫はおれが女性を苦手だって理解してくれてて、だからこうやって無理するなって助言してくれる。いい友達持ったよなぁ...。
「じゃ、二人で突っ込むか」
その案に頷き、戦地へ足を向けた。
結果は、買えた。帰る頃には身も心もボロボロだったけど、引き換えに高そうな包装のチョコレートを二箱ずつを手にした。
喜んでくれるかなーって思いながら、家に帰って渡したら...襲われた。おかしいだろ!って叫んだのに優しくキスされ、絆され、蕩けさせられた。
「待って、ぇ...」
「譲」
「だめ、や...あ...も、う...」
抵抗する間もなく服をたくし上げらて、涙目になった時に運良くインターフォンが鳴ったのだった。
相も変わらず舌打ちした朔はいつの間にか脱いでいた服を仕方なく着て玄関に向かう。
服を直し、なんでおれ毎回の如く朔に襲われてるんだろって考える。喰われてるってのが正解かもだけど、そうじゃなくて。この前だって、その前だって、それの前の前のときだって...と考えていたら、叫びだしたくなった。いろいろ、思い出したから。
体を重ねるのは好き......なんだけど。ちょっと強引ってのが傷。
「ーー!」
「あの...」
むっと頬を膨らませてみたところ、玄関から女の人の甲高い声がした。それと、女の人を宥める朔の声。
ちらり、と覗けば女の人が朔にチョコレートを渡そうとしているところだった。
ここまで来て渡そうとするなんてすごい、と逆に感心してして......イラッとした。
受け取るの...かな。
そういえば、おれの買ってきたチョコまだ食べてもらってない。
その人のチョコは貰って食べるのかな。
朔モテるもんな...それに、貰わなきゃ今後の仕事関係で揉めるのかもだし。
義理だったらいいけど。ここまできて義理ってのもおかしいから、きっと本命。
...やだ。受け取って欲しくない。これは、おれの勝手な嫉妬。
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