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第2話

ずっと口論している朔を見てたら虚しくなってきてリビングに戻り、ソファーに座ってクッションを抱きしめた。 女の人だったら私の恋人です!って言えたのにおれじゃ言えない。当たり前のことですら男同士の恋愛では出来ないのに、朔はやきもきしないのかな。 ...その分、会社の人に癒してもらってるとか。今いる人、綺麗だもんな。 「......」 自分で想像して苛立つ。朔が、女の人と手を繋いでるところ。エッチしてるシーンまで想像できないのは、おれの頭が拒否ってるからだろうな。 ってかそうだ...どれもこれも全部モテる朔が悪いんだよと責任転嫁する。おれがこんなにも悶々と一人で悩まなければいけないのは、朔が悪いんだ。 でも、かっこいいのは本当で...。 「もういいや、チョコ食べよ...」 考えるのも疲れた。なかなか戻ってこない朔にムカついてチョコレート箱を開ける。二箱買っておいて良かった、ヤケ食いできるし。 出てきた色紙のついた玉は、合計で九個入っていて、箱の裏にはチョコの説明が書いてあった。まぁ食べながら読めばいいかと一つに手を伸ばしー 「じゃ、また明日」 ドアを勢いよく閉め、やっとの事で同僚を追い返した。 譲がバレンタインだから、とチョコをくれた。それは、電車でも三十分はかかるはずの高級チョコでわざわざそこまで行って買ってきてくれたのかと思うとあまりに愛おしくてつい押し倒した。 するとタイミング悪く同僚がインターフォンを鳴らし、折角蕩けた譲を食べ損ねてしまった。 むしゃくしゃしつつ出てみると、チョコを渡しに来たと言われた。会社でも断り続けどうにかこうにか家に帰ったというのにこの仕打ち。なにより、この女に家を教えた記憶が無いのが一番の恐怖だ。 とりあえず譲に謝らないといけない。チョコをちゃんと受け取ろうとリビングに入り...絶句する。 ソファーからずり落ちたのか、譲は床に寝そべっていた。周りにチョコのカラフルな包み紙をまき散らし、箱は乱雑に放置されていた。 「ゆ、譲?」 その大惨事に頭の上に??マークを浮かべながら眠っている譲を揺さぶり起こす。 「ん、んんぅ?」 「譲、チョコ食べたのか?」 食べたらしい箱の他に、まだ袋に入った箱がテーブルの上に置いてあった。譲はゆっくり起き上がりとろん...とした目でこちらを見てくる。 「た、べたぁ...だって、朔、かまってくれないからぁ...おれ、さみしくて」 「...は?」 呂律が回らず体を前後に揺らし、のほほんと笑う。 「ん、...朔、チョコ、いる?」 譲は箱から一粒チョコを包み紙から取り出し、あーんと勧めてくる。なにがなんだか分からなくなりついつい口の中に含むと、嬉しかったのかきゃー!と譲は声に出して喜ぶ。 このチョコ...中から、何か... そこではっとして、チョコの箱の表示を見た。そこには、きっちりと「名称:チョコレートボンボン」と書かれていた。

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