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第3話

「おいしい?」 口の中でどろりと溶けでる甘い液体に頬を緩める。これくらいで酔うなんて、可愛いな、と。 「おいしい。けど...譲、これ酒入ってるぞ」 「おさけ...?」 分かっているのか分からないのか、譲は鸚鵡返しをする。舌っ足らずな言葉に微笑みかけた。するとその微笑みが気に入ったのかぱぁっと表情を明るくさせた。 「おれ、がんばった!女の人いっぱいいたのに、つっこんだ!」 いきなりの自画自賛に苦笑してしまう。多分、チョコを買う時に争奪戦にでもあったのだろう。そこまでして買ってきてくれたということに愛おしさを隠せない。 「そうか、ありがとうな?」 「むふふっ。朔のチョコ、そこにあるよ!あげるー!」 むふふって、なんだ、むふふって...可愛い。 緩みを抑えることなくありがとう言い、テーブルの上にあるチョコを取ろうとすると、譲がぱっとそれを取り上げてしまった。 「くれるんじゃないのか?」 「んん...だめ、やっぱダメなの」 明るい顔が曇る。表情も言ってることも、一変してるが? 「どうして?」 「言わない、...重いから」 「ゆーずーる。重くないから、話しなさい」 ソファーに座り、譲を抱き上げ膝の上に対面で乗せる。顔を赤く染めているのは酒?それとも恥ずかしいから? 俯く顔を覗き込めば、譲はむぅと唇を尖らせた。 「あの人の、チョコ受け取るの...?」 あの人、と言われ一瞬呆けるがすぐにさっき押しかけてきた同僚だということに気づく。もちろん、受け取る気はない。譲に要らぬ心配はかけたくないからだ。だが、この譲の発言はもしかしなくても...嫉妬だろう。 「それ、やきもちか?」 「.........だめ?」 心配をかけたくない、と思っていたがまさか嫉妬してくれるだなんて考えてもみなかった。同僚には感謝するしかない。 ぎゅうと抱きしめると苦しいと文句を言う。 「だめじゃない。むしろ、大歓迎だ」 「うん。ねぇ、チョコ受け取らないで...?」 「受け取らない」 「あと、それ以上モテないでっ」 「モテて...は、ないと思うが」 「朔はイケメンだから!声もだし!ばーか」 「褒めてるのか?貶してるのか?」 「褒めてますー!」 けらけらと笑う譲。酒が入ると、こんなにも素直になるのか。たまには、酒はダメだがチョコレートボンボンくらいなら食べさせよう。 「これ以上モテないと言うならばチョコをあげよう」 「善処いたします」 ならば許すと譲がチョコを袋から取り出し渡してくる。それを目の前で敢えて開けてやると嬉しそうにしてて、またそれもいい。 箱を開けると、譲が食べていたのと同じようなチョコレートが出てきた。 一粒手に取るも、またもや譲が取り上げてしまう。ニヤニヤとするその表情に今度はなんだ?と訝しげに譲を見た。 「朔、食べさせてあげる」

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