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父さん、迎えに来て 14
side朔
古い知り合いの家に行くために電車に乗った。
昨日、さすがにやりすぎたか?と思いつつ譲に話しかけようとしたらブチりと切られてしまった。電話をかけたが、当然出る様子もなく、来たメールには「電話してくるんな馬鹿」「変態と電話したくない」「ちょっとの間、電話禁止令を出す」などと書かれていて、悲しいやら楽しいやらで笑ってしまった。
電話禁止令なんか出して我慢出来ないのはどっちだろうな、と返すと「うるさい!」と返ってきた。
「電車久々だな...」
切符を八駅先までの分を買い改札を通り抜ける。もしかすると、最近乗ったかもしないがなにも思い出せない。
譲にあんなことをしたのは...譲には悪いと思うが、確信が持てなかったからだ。記憶は、好意を自覚したところで途切れていて、その後がどうなったのかは全く分からない。
体の関係があったのか、なかったのか。その辺をはっきりさせたかった。
昨日の反応を見てそれは確信になった。俺は譲に、手を出している。...まさか、最後に声をかけただけでイってしまうとは。
試したみたいで後ろめたいがその分成果はあった。その成果のことは、まだ譲にいうつもりはない。電話するなと言ったのは、そっちだからな。
目的地に着き、改札を出て辺りを見回す。青いセダンを見つけため息をついた。派手な車にしないでくれって言ったのに。
中で携帯をいじっている車の主に、窓を叩いて来たことを知らせると、すぐにロックが解除された。
「迎え、ありがとう」
「大丈夫よ、これくらい。でも......譲くんがいないことが腹立つ!」
乗り込むとバッグで強めに、というより本気で殴られた。反動で車のサイドボードに突っこむ。
この人こそ、譲の叔母ー結花子の姉の菜緒だ。暴力的で口も悪い、所謂元ヤンである。
結花子と大違いな菜緒は、出会い頭に結花子の父親に変わり俺を殴ってきた張本人でもあった。
前に譲に関係を疑われる原因も作られ、正直苦手であるが...今回のことはこの人が大事な助っ人である。
「ほら、資料よ」
「ありがとう、義姉 さん」
A4サイズの茶封筒にはパンパンに紙が入っていた。
「榊田って、ほんと恐ろしいところね...」
頷きはしない。無言の肯定とやらだ。菜緒の職業は法律事務所兼探偵。譲を連れ戻すために協力してほしいと言えば喜んで協力してくれた。
それもそのはず、菜緒は譲のことを溺愛している。譲が生まれた時から見守ってくれた唯一の親戚だ。
まぁ......その溺愛ぶりが酷すぎて会わせないようにしてきた訳だが。
調べてもらったのは、榊田の不祥事について。最近のニュースで、榊田の売上があまり伸びていないと報道されていた。ただ波に乗れていないだけかもしれないが、榊田のことだ、裏でなにがあってもおかしくはない。裏をかいて引っ張り出してやる。
「譲くんに会いたいわ...」
手伝ってくれたお礼に、会わせるくらいならいいけど。そう呟くと真っ先に食いついてきた。顔をぐいっと近寄せ、絶対よと鍵を刺されれば頷くしかない。
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