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第16話
学校に行きたくない、つかなければいい、とどんなに思ってもそれは叶わぬ願いだった。
「それじゃあ...いってきます」
気乗りしない状態で車を降り、普段時は優しい祖母に挨拶。
「ええ、いってらっしゃい。気をつけてね」
車が発進するとちらほらと生徒が登校してきていた。大体は車通学だけど。
まずは職員室に行かなければいけない...らしい。祖父が付いてこれない理由があり、昨日一通り説明されただけの状態である。正直、職員室の場所だって口頭の説明じゃわかりにくかった。
誰かに聞けばいいんだろうけど、さっきからちらほらとこちらを見てくる人達の奇異な視線を感じ取り無理だと判断した。
頑張って、自力で見つける他ない。方向音痴、なんだけど......どうにかなるだろう。
「ゆーずるくん」
一歩踏み出したのに、また元の位置に戻されてしまった。原因は神霜に肩を引かれたから。
「昨日ぶり」
耳に息を吹きかけられそうになり慌てて離れる。後から来たということは、徒歩通勤なのだろう。
「お、おはようございます」
「はい、おはよう。投稿初日から目立つねぇ」
それは好きで目立っているわけではないのだが。ムッとしていたのが顔に出ていたのか、怒る顔も可愛いなぁと謎に褒められてしまった。...朔じゃないと嬉しくない。
「怒んなって。すまん、どっかから情報漏れてんだわ。あの大手企業の榊田の子が入ってくるって」
「......榊田の子、じゃないんですけど」
「まぁまぁ、そのへんは穏便に」
「穏便...に、ですか」
穏便って、おれなにかやらかす前提なの?
「確かに榊田家にいるけど苗字は」
「榊田に変更されてるけど?」
神霜が鞄から「転入生の知らせ」と教師用に配られたであろうた紙を取り出し見せてくる。
『転入生の知らせ:榊田 譲 様が転入される模様。礼儀正しくするように』
「様...」
「榊田はやっぱ一味違うなぁ」
第一に突っ込むとすれば様付けのところ。第二に突っ込むとするならば...え、待って、おれの苗字いまどうなってるの?ということ。もうあの夫婦の養子にされているんだろうか。でも朔だって生きてる。どうやって養子縁組を組むんだ?おれの苗字、官乃木なんだけど?!
結局......榊田だからどうにでもするだろ、という結論にたどりついて、途中まで必死に考えてたことを放棄した。
「譲くんは、二年三組だからね〜」
「はい......、あの、先生」
歩き出した先生に声をかけたら勢いよく振り返って肩をがっしり掴まれた。何事だと頭を上げると鼻息の荒い先生が覗き込んできた。
思わずしゃくりをあげる。
「ひっ」
「ゆずるくん、それ反則...はぁ、はぁ...先生って...譲くんが言うと、まじエロいね...はぁ」
き、気持ち悪い。
「ね、もう一回言って?ね?ね?ねぇ?」
「や、や、やだです!」
「そんなこと言う子は教室に入れないぞ?」
「そ、んな!」
変態教師ここに見参、みたいなヒーローもののタイトルロゴが浮かぶ。いや、変態だからヒーローものにはならないだろうなとかどうでもいいことを考えていた。
「っ、り、理事長に言いますよ!」
キスすら出来そうな距離に先生が接近してきて、本能的に危ないと思い叫んだ。そしたら先生はピタリと動きを止め次の瞬間にはそくささと前を歩いていた。
「さて、榊田くん。教室に案内しよう」
扱いが、違う。
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