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第17話
一気に対応の変わった先生と共に教室に行って、挨拶もそこそこに席に座る。ありがちな、窓際の後から二番目の席。......うん、やっぱり視線が刺さるんだけど...。
HRが終わって神霜先生が出ていった途端一気にクラスメイトが近寄ってきた。悲鳴が上がりそうになるのを我慢する。
「榊田 譲くんって言うの?!私、宮本!宮本 あすかって言うの!」
「俺小鳥遊な!よろしく!」
「おれ橋本!」
「ねぇ一年生の時どうしてたの?」
「病気って聞いたけど大丈夫なのか??」
男女関わらず襲い来る気迫に言葉を失くしびびる。なんでそんなにグイグイ来るんだ。おれ、なんの特徴もない普通の男子なのに!
「あ、えっと...」
「今までどこで療養してたの?クロアチアのプリトヴィツェ湖群国立公園の近く?」
「く、くろ、?ぷりと、公園?」
「ばっかだなぁ、榊田家だぞ?スイスの〜」
「す、スイス?!」
周りが推測でどんどん話を広げていってしまう。海外なんて行ったことないし、療養だってしてない。でも、どう説明したらいいのか、説明してもいいのかもわからずただあわあわとしていた。
「まぁまぁ、みんな。榊田くん怯えてるから落ち着こう?」
そんな中、みんなを宥めてくれる人物が一人。きゅ、救世主だ...。
「だってぇ...気になるんだもん」
「だめだって。無理強いしたら嫌われるよ?...ね、榊田くん、いまから移動教室なんだ。良かったら一緒に行かない?」
その言葉にえ?!ぱっと顔を上げたら、美形がいた。柔らかな目元にふっくらとした唇。日本人離れした顔に、サラサラな色素の薄い髪。光に照らされて輝いていた。
「ふ、ぇ...」
「ん?」
なんだこのイケメン。神様は余程イケメンと平凡の差を広げたいと見える。
ってか、移動教室?!ここに来る途中でした神霜先生の会話を思い出すが、そんな話聞いてない。
「い、移動教室って...どこ?」
目に見えておろおろするおれを、イケメンくんはくすくすと笑う。笑う姿も絵になるとか…。
「理科室だよ、案内してあげる」
ふんわりと微笑まれ固まる。背後に天使が見えた気がしたから。
「あ、…ありがとう」
「ずるいぞー!俺たちだって仲良くしたいのに!」
お礼を言うと周りから激しくブーイングされる。驚くおれを横目にイケメンくんはさらっとおれの鞄から教科書を取り出し、おれの手を取ってその輪から逃走してしまった。
やることなすことイケメンである。
少し小走りでクラスメイトを振り切り二人で理科室に入った。小走りだったのに息切れしてしまって今迄どれだけ怠惰な生活をしていたか嫌でもわかってしまう。
「榊田くん、大丈夫?」
「だい、じょうぶ」
一方でイケメンは息の乱れもなくおれを気にしている。不公平だ、体力も顔も勝てないなんて。
ぜぇぜぇと荒い息を深呼吸で正常に戻す。
「楽になった?」
「うん」
「というわけで自己紹介。僕、安詮院 慎也」
イケメンくんの名前は慎也というらしい。握手を求められ握り返すと
引き寄せられ胸元にぽすんと吸い込まれる。この状況...どこかで。
「でさ、キミ...神霜せんせとどういう関係?」
そうだ、神霜先生と初対面の時にこうやって胸元に引き寄せられたんだった。それも、尻を触るところまで同じだなんて信じられなかった。
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