じっと見れば先生と酷似している。親子？それとも兄弟？試しに先生の弟...？と聞いてみた。 ｢よくわかったね、なんで？｣ 当てずっぽうで言ってみると当たってたらしく拘束から解き放たれる。慎也といい先生といい、スキンシップの多さが悪目立ちするが、兄弟なら納得が行く。 ｢弟なんだ...｣ ｢適当に言ってたの？いいけど。そう、僕と神霜せんせは一応兄弟なんだ。18歳離れてるけど｣ 18歳？！と慄く(おのの)おれを差し置いて慎也は手近な席に腰を下ろした。4人用の机の椅子を引き寄せ自分も座る。 遠めに座ったのは多少なりとも逃げ場が確保できるようにするため。 ｢苗字が違うのは世間体。一緒の神霜だと質問攻めで鬱陶しいし。あ、でも｢安詮院｣は母親の旧姓だから偽名じゃないからね。 歳が離れてるのは...まぁ兄さん、神霜せんせは所謂愛人の子ってやつで、婚約者がいるってのにうちの母親がどこぞの馬の骨とも知らない男に種付けされてできちゃったらしいから。たしか、17歳の時だったかな？｣ ｢へ、へぇ...｣ 聞いてもいない複雑なご家庭事情を平然と喋ってるけど......それ、やばくないか。愛人の子...先生は常に笑ってたけど...そんな過去があっただなんて。 ちょっと辛辣に扱ったことを反省した。 ｢でも、僕神霜せんせと中悪くないよ？むしろいい方。一緒に住んでるし、家族仲も悪くない。でね、こっからが本題！｣ ずいと顔を寄せられる。ついさっきまでの暗い雰囲気はもう欠片も残っていない。代わりに慎也の表情は光り輝いていて、さも楽しそうな雰囲気だ。 ｢兄さんと勝負することに決まったんだ！！｣ ｢は？｣ ｢兄さんが昨日、｢榊田の子がすごく可愛い...やばい｣って言ってたのを聞いて、どっちが先に堕とせるか勝負しようって僕が提案したら乗ってくれたんだ！｣ 前言撤回。先生をもっと辛辣に扱う方針に変更。 なに勝手に勝負材料にしてくれてんだと怒ると本気じゃなかったとか言い訳してきた。 ｢今日会って、マジになっちゃったんだ！譲くん可愛い！僕と付き合って！｣ ｢いや無理ですごめんなさい諦めください｣ 精一杯の拒否の言葉を並べてやった。なのに。 ｢照れちゃって...可愛いなぁ、もう｣ いや照れないから、断ってんのになんだこいつタフすぎだろ。 ｢照れない。おれ、恋人いるから無理｣ ｢...え｣ ここで初めてやっと慎也の笑顔が固まり引きつった。してやったり、そこまで考えていなかったみたいだ。 ｢どんな男？！僕よりイケメンなの？！｣ 大声で問いただされ困惑する。男だと決めつけられているのが気に入らない。たしかに男だけど。あとイケメンって自分で言うな。 ｢男、じゃないし｣ ｢それだけ色気ムンムンさせて？｣ ｢いろけっ｣ ｢まるで昨日抱かれたみたいな...破廉恥！｣ 昨日、と思い返して。こんなとこしたら相手の思うつぼだというのに赤面してしまった。慎也はやっぱり...！って顔して顔を泣いているかのように覆う。 ｢う、うぅ...ゆ、譲くんはもう純白じゃないなんて......っ処女卒業してるだなんて...っ、ありえないからぁあああぁあ！｣ 大声で恥ずかしい言葉を繰り返す慎也にこっちが冷静になってくる。 ええ処女卒業しましたとも。それも昨日はテレフォンセッー...あんなことしなければ今日だって電話するような仲なんですー。 とか、心の中で恋人自慢をする。全然冷静になれてない。 ｢......ほんとにその相手のこと好きなんだね｣ ブスくれた慎也に百面相な顔を覗き込まれる。