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第20話
焦っている慎也に頬に手を添えられハンカチで涙を拭われる。
「譲くん!涙拭こ?ね?」
擦らずぽんぽんと押さえる感じで丁寧に拭き取られていく水。多分擦ったら腫れちゃうからだろうなぁとぼーっとしてた。
なんでおれ、泣いちゃったんだろ。
不安になったんだ。朔は百合子さんに迫られたことがある。祖父母の監視下を掻い潜って逢いにいくことなんて出来ない。もし逢えない間に女の人に迫られたら?朔は元はノーマル、靡いてしまう...かも。
大粒の塩水がハンカチに吸い込まれていく。
「ああー!それ以上泣かないで?!ハンカチ保たないよ!」
「と、まんな...い」
「なんかえろ...じゃなくてっ、じゃあハンカチ持ってていいから?ね?!保健室行こっか!」
「じゅぎょー...」
「無理でしょ?!譲くんはまだ体調が戻っていなかったので保健室に行きましたって言っておくから!それでいい?」
頭の中がぐるぐるしてよく分からない。保健室?どこ?授業は?初日から休むの?
「わ"がん"な"あぁあ"ぁい"ーー」
「えええええ」
涙腺崩壊不安ダム決壊。本格的に訳わかんなくなってきたおれの口を後から誰かが塞ぐ。
「慎也、お前譲くん泣かせたな?」
「あ、あ...兄さん?」
神霜先生だった。
「譲くん弟がごめんね?保健室行こうか」
手を取り立たされる。先生は慎也をじろっと睨み「好きな人泣かせるやつはモテないぞ〜」とはやし立てた。それに慎也はもたつき、狼狽えを見せていた。
おれが理科室から泣きながら出てきたから、慎也はかなりキョドってて、先生は薄ら笑いを浮かべていた。
どこに連れていかれるのかと思えば、ちゃんとした保健室。
ベットに寝かされ布団を被せられてカーテンを閉められる。なにかされるんじゃと身を固くしてたら「なにもしないから寝てて」と拍子抜けする声で言われて大人しく横になった。
「弟がごめんな。話聞いたっぽいからわかったと思うけど、勝負しようって言ったのは俺なんだ」
うん、そこから話が拗れたんだ。
「冗談だったんだけど、あいつマジで受け取ったらしくて。まさか慎也の好みどストライクだっただなんて知らなかったから...ごめん」
「...好み」
「そ、俺あんまり慎也のこと知らないから」
あれ、でもさっき慎也は神霜先生と仲良いって話してなかったっけ。嘘、だったのかな?でも人によって仲良いって基準変わるからいいや、とその場は流した。
「慎也、どうせ「遠距離恋愛だから浮気されるんじゃないの?」とか切り込んできたんだろ?好きな子いじめたいタイプはこれだから困るよ」
「...見てたんですか」
「見てないよ。なんとなーく分かるだけ」
布団から目だけを覗かせて窺ってみる。やっぱり仲良しなんだなぁと目を細めた神霜先生を見ていた。
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