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第6話

 ブルーがジョンを家に持って帰って来て、「使うか?」と聞いたとき俺は即座に「いらない」と返した。  馬鹿みたいな話だが、俺はジョンに嫉妬していた。  ブルーがどれだけの情熱を傾けて、ジョンを作ったか知っていたからだ。  ブルーはしょうがないなという顔をした後、急に頭を抱えて蹲った。 「ブルー、ブルー」  俺の呼びかけに答えず、ブルーは完全に意識をなくした状態で病院に運ばれた。  ブルーの脳は知らないうちに新種のウイルスに犯されていた。  余命半年。  現在の医学では手の施しようがないと主治医はあっさり診断を下した。  俺は医者の言葉を呆然と聞きながら、大きな悲しみの中でも、小さな自分の心の声「これでブルーと二人きりで過ごせる」がよぎったことに気付いていた。  医者からの宣告を聞いてもブルーは戸惑った様子はなかった。  いつも無口な方だが、その日は更に無口だったくらいの変化だった。  次の日俺が病室を訪れると、ブルーの部下たちがベットを取り囲んでいた。ベットで胡坐をかいて座るブルーの膝の上には設計図のようなものが置いてある。  俺はその光景を見た瞬間、今まで感じたことのないような怒りが湧いてきた。  俺はつかつかとブルーのベットに近寄ると、設計図を掴み、床に放り投げた。 「こんな時まで研究かよ。お前そんなに早く死にたいの?」  余命宣告された相手にかけるべき言葉ではないと分かったが、俺は訂正もせずに、両手を震えるほど握り締めた。  ブルーは目を伏せると部下たちに出て行くように言った。  部下の一人が床に落ちた設計図を拾い上げ、俺に黙礼して出て行く。  部下たちが全員いなくなると、俺の固く握った拳にブルーがそっと触れた。 「ウィル。心配かけてすまない。ただ死ぬ前にどうしてもやりたいことがあるんだ。分かって欲しい」   俺はブルーの冷たい手を振り払った。 「分かんない。……そんなの全然分かんないっ」  俺はそのまま病室を飛び出した。  その日から俺とブルーのいたちごっこが始まった。  ブルーは俺の目を盗み、研究を続けようとした。  俺がブルーから電子機器の一切を取り上げても、次の日病室に行くとブルーの机には最新のノートパソコンがいつも載っていた。  俺は大きなため息をつくとその場にしゃがみこんだ。  俺が一瞬思い描いた二人の時間なんて全くなかった。  俺がどんなに言葉を尽くしてもブルーは研究を止めなかったし、俺はそんなブルーにいらだちを隠せなかった。 「ああ、もう好きにしろよ。大好きな研究してせっせと寿命縮めてれば?」   その日俺はそう怒鳴って病室を後にした。  枯れ木のように痩せていき、瞳も落ちくぼんでしまってるブルーがどうやってもパソコンだけは手放さないことに無性に腹が立ち、ここ最近ブルーに酷い言葉を投げつける回数が増えてしまっていた。  結局、俺は最後まで研究に勝てなかったってことかよ。  滲んでいく涙を拭いながら、看護師が止めるのも聞かず、俺は病院の廊下を走り、そのまま家に帰った。  その日の深夜ブルーが亡くなった。  様態が急変したらしく、俺はブルーの最期に間に合わなかった。  頬のこけたブルーの顔を見つめている俺に、最後まで離さなかったというパソコンが看護師から手渡された。  俺はカッとしてそのパソコンを地面に叩きつけようと振り上げた。  しかしできなかった。  俺はそれを胸に抱くと、両膝をつき声を殺して泣いた。

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