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第7話

 俺はリアムにコーヒーを渡しながら、ブルーの最期を思い出していた。  ソファに座ったリアムは礼を言い、俺からカップを受け取った。 「それで、悪いが持って帰ってくれないか」  俺の言葉にリアムが顔を上げる。 「ジョンだよ。正直見たくもないんだ」  リアムはコーヒーをテーブルに置くと慌てて両手を振った。 「ああ、勘違いするな。これはジョンじゃないぜ」  リアムが隣に置いてある馬鹿でかい荷物を親指で差しながら言う。 「ジョンじゃない?」 「ああ」  リアムは慣れた手つきで包装を解いていった。  俺が止める間もなく、箱が開かれる。 「これは……」 「すげえだろ」  リアムは自慢気にこちらを見た。  それはブルーだった。  いやもちろん本物のブルーということはありえない。  先ほど彼は俺の目の前で土の中に埋められたんだから。  だがその物体はブルーにしか見えなかった。  箱の中に横たわり、目を見開いている。 「よっと」  リアムが箱からブルーに似たロボットを取り出し、ソファに座らせた。  ロボットはブルーがいつも来ていた黒いハイネックのセーターと黒いジーンズを身に着けていた。  ブルーは汚れが目立たなくていいといつもこの服装だった。  リアムがマネキンの背中の辺りをごそごそやると、マネキンの目が一瞬光り、俺とリアムの顔を交互に見比べ始めた。 「こいつは肌の質感や髪の毛にもこだわったんだ。髪は本物のブルーのもんだしな」  そう言えばある日病室に行ったらブルーの髪が坊主になっていたことがあった。  ブルーは薬の副作用なんて言っていたが、こんなことに使っていたのか。 「ほら、ちょっと触ってみろよ」  リアムが俺の手を取り、ロボットに近づける。  俺はその手をはねのけた。 「いい。リアム、いくら何でもこのプレゼントは悪趣味だろ」 「言っとくがこれは俺からのプレゼントじゃねえぜ。ブルーからお前さんにだ」 「ブルーが?嘘だろ」  ブルーがジョンを作成中にいつも俺に言っていたことがある。 「俺は人工知能を搭載したAIの見た目なんて本当はどうでもいいと思ってるんだ。よく表情をつけろだとか、芸能人の誰それに似せろなんて言う奴がいるが、俺の作ってるのは人間じゃない。人間に似せたコンピューターなんだ。そりゃ、こちらの表情を読んだりする機能だってつけられなくはないけど、馬鹿らしいね。俺は絶対にそんなもの作るつもりはない。」  そんな考えを持つブルーがこんなもの作るはずがない。  俺は疑わし気にリアムを見た。 「おい、おい。本当だぜ。ブルーがこいつを企画して、一から作ったんだ。制作時間が短すぎて、こいつにはプログラムをほとんど入れられなかったがな。まあ、見た目重視ってやつだ」 「ますます信じられない。ブルーがオンラインショッピングも検索システムも搭載していないロボットを作るだなんて」 「それが作ったんだよ。こいつは正真正銘ブルーの遺作だ。最後の作品があいつの今までの功績を全て否定するようなもんってところが面白いだろ」  そう言うとリアムはソファから立ち上がり、玄関に向かう。 「おい、これを持って帰ってくれよ。」  大声を上げた俺をブルーロボが何の感情も映さない瞳で見上げる。  くそっ、こんな表情まで本人と似てやがる。 「とりあえず少し一緒に暮らしてみろ。本当に無理だったら、連絡くれれば引き取りに来るから」  リアムの体はもう半分、外に出ていた。 「ウィル。ブルーは最後までお前のことを考えてたぜ。あいつと暮らせば少しはそれが分かるんじゃないか」  そう言うとにこりとこちらに微笑み、リアムは出て行ってしまった。  彼は同僚の中で、一番長くブルーと働き、一番仲のいいメンバーだった。  哀しみは深いはずなのに、今日の彼の表情はどこかすっきりしていた。

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