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告解 〜 the Confession 3

季節は次第に移ろい、世界に影の射す日が多くなってきた。陽の昇る時間が日毎に短くなっていく。 「珠利。私たちはそろそろ行かねばなりません」 そう切り出した流伽の表情は、これまでに見たこともないほど思い詰めたものだった。 「ここの光は、もう羊の民には足りない。新たな場所を探す旅に出ます」 流伽との別れが訪れる。俺の最も怖れていた日が来ようとしていた。 けれど、次に続く思いもよらない言葉に俺は我が耳を疑う。 「珠利。この門を離れ、私たちと一緒に来てくれませんか。私たちにはあなたが必要なのです」 遠慮がちな声には、真摯な想いが込められていた。 真っ直ぐに俺を射抜く澄んだ双眸は、その言葉が偽りでないことを物語っている。 「本来、羊の民には羊飼いだけでなく守護者(ガーディアン)が必要なのです。けれど、私共の群れにはそれが欠けている。外から身を守る術を羊の民は知らない。この世界のあちこちには思いがけない恐怖が潜んでいます。この先私一人の力では足りないことがあるかもしれない。けれどこの巨大な門を守ってきたあなたの強い力を授かれば、私たちはこれまでよりも安らかに旅を続けることができるでしょう」 この門を離れて、流伽と共に世界を旅する。それは今の俺にとって途方もなく魅力的な未来だった。 けれど、永らく仕えてきた主の元を離れることもまた俺にはできないと思った。 流伽に抱くこの想いは特別なものだ。それでも、主に対する愛と忠誠は変わらない。 この胸の内を見透かしたかのように、流伽は静かに俺を説き伏せようとする。 「ここにおらずともあなたの神を信仰することはできます。これからは門ではなく、羊の民をお護り頂きたいのです」 夜になれば、光の中で活動する羊の民は眠りにつく。 いつもは群れと共に夜明けを待つ流伽が、今宵は俺の傍にいた。 闇の中でも、流伽は仄かに光を放っている。羊の民を先導し、共に過ごしてきたからだろうか。ヴェールを纏っているかのように輝くその美しさが眩しくて、俺は目を細める。 「群れの傍にいなくていいのか」 「この辺りには羊の民を襲うものはいません。少しぐらい離れていても平気です」 恥じらうように目を伏せてそう言うのが愛おしい。俺は自分の中で出した答えを伝えるために口を開いた。 「流伽。主に、お前の話を申し出たい」 「……本当ですか?」 心の洗われるような美しい笑顔だった。ゆっくりと頷く俺に、美しく輝く流伽は祈りの言葉を捧げてくれる。 「ああ、どうかお許しが下りますように」 俺のような賤しい身分の者が主に仕えるのをやめたところで、一体何の障りがあるだろうか。 門を守ることなど、他の誰にでもできる。 流伽の身体から放たれた小さな光の粒が、ふわりと俺の頬を掠めた。俺はこれからこの羊飼いと共に生きるのだ。 込み上げる愛おしさのままに抱きしめれば、腕の中で流伽は小刻みに震えた。 「珠利……」 「お前を、愛している」 想いの丈を告白すれば、流伽が今にも泣き出しそうな顔を上げて俺を見つめる。戸惑いをまなじりに滲ませながら、そっと口を開いた。 「私も、あなたを愛しています」 花弁のように紅い唇に口づけて柔らかな感触を味わい、舌を絡め合う。そのまま掌で柔肌を弄れば、咥内に熱い吐息が流れ込んできた。 誰もいない世界の果てで、俺は流伽と愛し合う。 主よ、懺悔します。 私は貴方の許しを請わぬままに、あの美しい羊飼いと契りを交わしてしまったのです。

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