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第2話「呪縛」
人間と竜。そこには圧倒的な主従関係があった。俺たち竜は人間にとっての従者。そして、コマンドは竜に命令を下す謂わば呪いの言葉。
「君はコマンドが嫌いなんだよね?」
俺の中に流れている血もまたコマンドと言う名の呪縛に囚われている。でも俺は自分が認めた人間以外の命令なんてききたくない。
「そうだ。コマンドなんて糞食らえだ。」
コマンドだってその気になれば拒絶する事はできる。ただし、とてつもなく精神を疲弊する。だから、いつも反抗的な態度をとって、極力人間とは一緒にいない様にしていた。
そのせいで、“暴れん坊の黒竜”なんて変なあだ名までつけられた。わざわざ“暴れん坊”なんてつけなくても、この鉱山に黒い竜は俺しかいない。皮肉でしかなかった。
「僕もコマンドとか《glare 》とか、もう聞き飽きたよ。この御時世、皆平等であるべきでしょ?ここの人達は考え方が古いよね。」
カシューは独自の見解を持っていた。
《glare》とは、なかなかコマンドを受け入れない竜に対しての謂わば最強奥義。その方法は至ってシンプル。睨む。ただそれだけだ。
何がそうさせるかは分からないが、《glare》にあてられた竜は、たちまち気力を奪われ、ひれ伏してしまう。俺も幾度となく、その圧力に屈してきた。
「《glare》なんて、もう暴力だよね。」
実際、多用されすぎて精神に異常をきたしたものもいる。それなのに、竜と人間の協定では危機回避に必要な行為として《glare》が正当化されている事には俺も納得がいかなかった。
「僕ね、出来れば竜と友達になりたいんだ。」
カシューの瞳が俺を真正面から捉えた。真っ直ぐに見つめる視線が痛い。目の前の手付かずのカップに視線を落とした。
「僕とお友達になってくれない?」
カシューには何か特別なものを感じたが、人間に従うつもりは無い。しかし、友達と言われるとどう返していいのか返答に困った。
おもむろにカップへと手を伸ばし、いかにも甘そうなそれに口を付けようとした時、ドンドンッと強い力で扉をノックする音が響いた。
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