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第3話「鋭い眼光」

 返事も待たずに扉が開き、竜の教育担当であるヒスイが長い髪をなびかせながら部屋に入ってきた。 「黒竜!!こんなところにいたのか!?いったい、どれだけ私に苦労をかけたら気が済むんだ!」  俺はこいつが大嫌いだ。いつも偉そうで、気取っていて、傲慢で、そのくせなぜか慕ってくるヤツが多い。  当然の事ながらヒスイは俺を連れ戻そうとした。強引に腕を掴む指先が、痛いほど食い込んでいる。じたばたと足掻きをやめない俺に、否応なしに《glare(グレア)》があてられた。 「帰るぞ。『come(カム)』」  《glare》でぼんやりとした頭ではコマンドに逆らう気力も無く、ふらふらとヒスイの後をついていくしかなかった。 「彼、大丈夫ですか?」  心配するカシューの問いにヒスイがもっともらしい言葉で諭した。 「安心したまえ。竜にとって人間に従う事は本能だ。誰だって本能に逆らう事は出来ないだろう。逆らえばその代償も大きい。彼らには私達人間が必要なんだ。」  俺は朦朧とした意識の中、小さく首を横に振った。カシューもあまり納得をしていなそうだ。 「そんなに黒竜が気に入ったか?」 「はい!さっき、お友達になって欲しいとお願いしたところです。」  カシューの返答にふっと鼻で笑ったヒスイは、それならばと、俺を賭けて勝負を持ち掛けてきた。  その勝負の内容が《glare》対決だった。《glare》は人間相手にも有効で、しばしば人間同士の対決の手段としても用いられていた。 「私に勝てたら黒竜は君の自由だ。負けたら備品庫の掃除でもしてもらおうか。」  ヒスイは自らの勝利を信じて疑わない。不適な笑みを浮かべた。俺もヒスイの《glare》が誰よりも強烈なことは身を持って知っている。こんなのは茶番だ。  それを知ってか知らずか、カシューはヒスイに向かってお願いしますと勢いよく頭を下げた。  ルールはカシューが30秒間立っていられたら勝利。時計の秒針が天辺のところで勝負は開始された。  カチッ、カチッ、カチッ…  はじめの数秒はヒスイも様子をみていたが、カシューから仕掛けてくる気が無いと分かると、容赦なく圧力をかけてきた。 「………うっ!!」  カシューは初めて当てられた《glare》の脅威に、何とか耐えていた。しかし、やり返す気配はまったく無く、ただただ耐え忍んでいた。何度もよろけるカシューに、見ているこっちがヒヤヒヤする。  しばらくすると人形の様にピタリと動かなくなり、立ったまま気絶でもしたのかと思っていたら、急に目の色が変わった。  それは恐ろしく静かな光景だった。  カシューの《glare》が山火事みたいに周囲までも巻き込んでいき、側で見ていただけの俺にまで熱さが伝わる。立っているのでやっとだった。

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