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第8話「ドムとサブ」
「結論から言うと身体に異常は無い。私が思うにストレスだ。」
「「えっ!?」」
思わぬ診断にカシューと声が見事にハモる。それから、ここ最近の過ごし方について尋ねられた。
「別に普通だよな?」
俺の問い掛けにカシューもうんうんと頷く。一緒に遊んで食べて寝て…ストレスとはまったく無縁の生活を送っていた。
「もしかして、この一週間まったくコマンドを使っていないんじゃないか?」
「はい。僕たち友達なのでコマンドなんて必要ありません!」
「それこそが、ストレスの原因だよ。」
呆れたと言わんばかりのため息がヒスイから漏れた。
竜の中にはsub 性(=サブミッシブ)と呼ばれる被支配欲が強いあまりに、定期的にコマンドを受けないと体調を崩す者がいるらしい。
信じられない事に、俺がそれに該当するかもしれないと言うのだ。ずっとコマンドに反抗的だった俺は、カシューの『kneel』が初めて自らの意思で行ったものだった。その時、subとしての潜在意識が呼び覚まされたらしい。
それに対して人間の様に支配欲を有する者をdom (=ドミナント)と言う。カシューもまた強いdom性の持ち主で、寝不足も満たされない支配欲からストレスをきたしている可能性が高いという見立てだった。
それぞれにdom/sub用の抑制剤が処方された。とは言え副作用の強い薬の為、あまり服用しすぎない様にと注意を受ける。
「これを機にお互いの在り方を考え直す事だ。」
ストレスだのdomだのsubだの、普段聞き慣れない単語に理解が追い付けず、ヒスイの言葉はまったく頭に入って来なかった。
「さぁ、もう終わりにしよう。カシュー、君は少し残って。」
一人だけ追い出された俺は、真っ直ぐ部屋を出て角を曲がると、足音を消して引き返した。
あのヒスイの事だ。カシューに変な事を吹き込んだりしないか、その事が心配で仕方なかった。扉の前で聞き耳を立てていると、カシューの声が聞こえた。
『それは何ですか?』
『大したものでは無いよ。その前に聞かせて欲しい。なぜそこまでコマンドを否定する?』
一瞬、自分に問われているのかと思った。ここ最近の心境の変化から、その答えをすぐに出せずにいた。カシューの答えも、またハッキリしない。
『…竜がかわいそうです。…彼らもそれを望んでいません。』
『本当に?黒竜が嫌々コマンドを受け入れている様に見えたか?』
それは…と口籠るカシュー、さらに追い討ちをかける様に言葉が続いた。
『君だって嫌な感情以外のものは感じなかったか?形式に囚われ過ぎて見失っているものはないか?』
しばらくの沈黙の後、カシューの大きな声が響いた。
『『首輪』なんていりません!!』
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