『とりあえず持っておきなさい。』 　それは竜と人間の契約の証。『首輪』を受け取った竜は、贈り主の人間との主従関係を認めた事になる。くだらない。 　そう思うのに、無性に首元が気になった。 　俺がカシューのものになったら、自分の望みを素直にぶつけてくるだろうか。カシューは俺の自由を意識するあまり、いつも遠慮がちだった。 　そしたら、本当の意味で友達になれるのだろうか。それとも、今の関係がガラリと変わってしまうのだろうか。 　支配者へと様変わりしたカシューを想像し、足元からザワザワと沸き上がる感情が一気に脳天を駆け巡る。「わぁっ！」と小さな悲鳴が自分から漏れ、身体がよろけて壁にぶつかった。 『あれ？今、何か物音がしませんでした？』 　ヒスイと部屋の中で話をしていたカシューが、外で物音がした事に気付いて近づいてきたのがわかった。扉が開かれる前に、俺は一目散に逃げ出した。 『ネズミでも出たんじゃないか？そろそろ君もそれを持って、黒竜の元へ帰りなさい。』 　俺はこの胸の高鳴りを誤魔化す様に全速力で走って、部屋に帰った。そのままベッドに倒れ込むと、暴れる感情を押さえ込む様に毛布にくるまった。 「ただいまクロ。」 　ベッドから軋んだ音が鳴り、すぐ側に温もりを感じた。毛布の上から背中を撫でられ、再び胸のドキドキが振り返す。 「触るな！」 　突然の怒鳴り声にカシューの手がピクリと止まる。俺は、あの『首輪』の事が頭から離れないでいた。カシューの気持ちは、聞きたいけど聞きたく無い。訳の分からない感情でごちゃごちゃしていた。 「やっぱり嫌だった？コマンドを無理強いするみたいになってごめんね。」 「おまえは…」 　一呼吸おいて疑問を投げ掛ける。 「おまえは、どうだったんだよ？」 　自分の気持ちも分からないのに、カシューにそれを問うのは狡いと思ったが止められなかった。 「僕はクロの嫌がる事はしたくない。」 　カシューはもっと狡かった。苛立ちから被っていた毛布を自ら剥いで起き上がると、カシューの両肩を強く揺さぶった。 「だから、おまえの気持ちはどうなんだよ！」 　茫然として石の様に固まったカシューの服をまさぐり、ポケットから『首輪』を探り当てると馬乗りに股がった。 「これの使い方教えてやるよ！」 　抵抗しないのをいい事に荒い手つきで、カシューの首に『首輪』をつけた。わざとキツイ位置にベルトを合わせる。苦痛に歪んだ表情を浮かべながら、微かに口元が動いた。 「もう、どうなっても知らないからね…」