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第5話

 力が抜けた俺の鎖骨に心地良い感触が当てられた。それはやはり泉原の唇で。だが、訳も分からず教室でキスした時とは違って、俺は緊張していた。  だって、これから、本当に、俺は、泉原と、セックスをするのか?   (駄目だな……俺、また泉原から逃げてる!) 膝立ちで泉原と向き合うと、その唇に思いっきり自分の唇を押し当てた。 教室で交わしたのとは違う、力強いキス。すると唇をこじ開けるように舌が入ってきて、呼吸が詰まった。 身体も揺らいで、制服の上着がバサッと床に落ちた。口内を舌で探りながら、泉原の指はひとつひとつ俺のシャツのボタンを外していく。 やっと唇が離れてぷはっと息を吐くと、服の上から既に形を変えている俺自身に泉原の指先が触れた。 「ちょ、ちょっと待って」  さすがに混乱した俺は泉原の手を止めて、もたもたしながらベルトを外し、ズボンを脱ぐと、思い切って下着も脱いだ。 何も身につけていない下半身への強い視線に怯えながらも、俺は泉原の腰に両腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。 「キスだけじゃなくて、こういうので分かっただろうけど……俺はっ、完全に、康太郎を性的対象として見てるんだぞ。それでも平気なのかよ?」  そう言って泉原の顔を見上げると、さっきより怖くなった。だって泉原は、今まで見た事のない表情をしていて。 「また心配してる」  ぺろりと首筋を舐められると、そのまま胸元へと舌を這わしてくる。 「やっ……」 胸の突起に舌先が触れ、思わず声が出た。舌を這わせながら、泉原は指先でもう片方の突起を弄る。 「だって、こういうのもさ、真面目な恋愛には大切だろ?」  いつもとは違う笑みを浮かべた泉原に導かれるように、ごろん、とベッドにふたりで寝転んだ。 本気で男の俺に欲情してるのか? 泉原の言う「真面目な恋愛」とはどんな恋愛なんだ? 「ふっ……ぅうん」 疑問が頭を渦巻くが、また胸元に唇が触れられて、我慢する事も出来ずに喘ぐ。初めて聞いたな、自分の口から出る、こんな音色。 「あぁ、もう……なんだよ」  泉原は、もう我慢できない、といった声色を出すと、苦しくなるくらいぎゅっと抱きしめてくる。勢い良く服を脱いだ泉原は、ぐしゃぐしゃになった制服や下着は気にせず、再び俺を抱き寄せた。 「なっ、なぁ、シャワーはっ……」  もがきながらの言葉は唇で塞がれた。 「もう離したくない」  後頭部が押さえられて、長く濃厚なキスを交わすと、泉原の温かい胸板からは、ドクドクと大きな鼓動が聴こえてくる。 (こいつも……緊張してるのかな)  ぼんやりと思考を巡らすと、俺自身がぎゅっと掴まれた。泉原はゆっくりと手を動かすが、何も言わない。俺はぎゅっと瞳を閉じて、暖かな掌に包まれた俺自身に意識を集中させる。 (やっべ……すげー、気持ち、良いな……)  先端をひっかかれたり、握る力が緩まったかと思ったら、また強くなったり。そんな動きに、どんどん快感が高まっていく。 「やっ、あっ……ああっ!」 瞳をきつく瞑ったまま、そんな叫びを発して、俺は達した。 「気持ち……よかった?」 いつのまにか流していた涙を拭う泉原に、ぼんやりしたまま頷く。霞んだ瞳に映った笑顔に、俺もうっすらと微笑んだ。 「嬉しいな……俺で、竜司が、喜んでくれて」 「っ……康太郎は、どうなんだよ」 「どう、って?」 「俺だけ先に……イったけど、気持ち良いのか、って……」 羞恥心から顔を背けると、 「当たり前じゃん」 泉原は笑って、俺の頬に口付ける。その唇は頬から耳元に移動し、そっと囁かれた。 「でも……もっと、もっと気持ち良くなりたい」  がばっと起き上がった泉原は、ベッドの下に上半身を突っ込んで、ごそごそと何かを探る。そしてまだぼやけたままの俺の下半身を少し持ち上げると、今度は尻に指が当たった。 「ひっ……」  びくん、と勝手に身体が跳ねた。だって泉原の指先は、さっきまでとは違う、冷たく不思議な感触で。 「ちょっ、なんだよ、これ……なんか付いてる……って」 「この間買ってきたんだ、潤滑剤、ってやつ」  あっさりと言うが、そんなものを探し選んで、金を払う泉原の姿が想像つかない。  「なっ……なんで、そんなのっ……」  戸惑いながらじたばた動くと、泉原は軽くキスをして、片手で俺の上半身を押さえつける。もう片方の手は尻に当てたまま、徐々に指を窪みへと動かす。 「だってさ、こういうの無いと、竜司が苦しいんだろ?」 「だからって……あっ」  内部を広げながら、濡れた指先が身体の奥に入ってくる。そんな初めての感覚に、緊張感を通り越して高揚感が増した。 「あぁっ……や、やあっ」  ある一点を押されると、快感から身体全部が変になり、幾度も喘ぐ。すると泉原の呼吸も荒くなるが、突然指が抜かれた。 「ふわっ……」 だが、すぐにまた違った感覚が、入り口に当てられた。その硬く熱い感触に、俺の脳内は再び疑問でいっぱいになった。 (うっわ……これ、泉原のやつ、なんだよな……)  先端から少しずつ押し入ってくる泉原自身に、苦しさと快感の両方から責められて、身体が固くなった。 「力、抜いて……」   優しい泉原の声に少し落ち着いて、ふっ、と息を吐くと、より深く泉原が俺の中へと入ってきた。 「んっ……」   思わず顔をしかめると、泉原の動きが止まった。 「苦しくないか?」 そう問い掛ける泉原は、俺の身体を気遣っているのだろう。 「そりゃ……苦しいっ、かも……だけど」 伸ばした腕で首を引き寄せて、泉原の唇を舐めた。 「……もっと、動けよっ……じゃないと、お前が、気持ち良く、なれないだろっ」 拗ねる様な俺を見て微笑むと、泉原はまた激しく動き始めた。内部を抉られるような感覚に、俺の表情は苦痛に染まる。 「んっ……竜司、りゅうじ」 吐息と共に漏れる俺の名を呼ぶ声に、うっすらと瞳を開けると、そこにあった知らない顔にしばらく見惚れた。 (うっ、うわあ……なんか、エロい) ボサボサの髪の毛、赤く染まった目元から俺に真っ直ぐ向けられた視線に、半開きの唇……こいつ、こんな表情も見せるんだ。  うっとりと力を抜いた俺の内部で、どんどん動きも激しくなる。ある一点が擦られると、そこはさっき指で責められた弱点で。思わず身体は跳ね上がり、口からは掠れた喘ぎが止まらずに、瞳からは涙が溢れてくる。 もはや苦痛より快感の方が大きい。それなら泉原の身体も、もっと、もっと気持ち良くさせたかった。 「康太郎、んっ、こう、たろー……」 ぎこちなく身体を動かしながら、泉原の身体中にキスをしたり、名前を何度も呼んだ。 「はぁっ……うっ」 「あっ……んっ」 泉原と俺の喘ぎが重なると、俺の体内で、泉原の脈動が大きく波打った。 (こいつも……俺とで、気持ち良く、なれたのか) なんだかほっとして、俺の荒い呼吸は、自然と寝息に変わっていった。心地良い余韻の残る脳内で、良い夢を見る事が出来そうだな。

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